秋にゃりサンとお戯れ③ーⅠ | 古高仁乃の艶が~る☆

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『世に潜む日々の中、あんさんはわての天女やった』
古高俊太郎さまが大好きな仁乃のブログです。
艶が~るの攻略や感想などぼちぼち書いていきます。

今回の秋にゃりサン。
ど艶苦手な方の為、Ⅰはど艶くありません。
Ⅱ・Ⅲはいつも通りですのでご心配なく(何の)
では、どうぞ♪



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




(川辺に腰を降ろした私は、小さくため息をついた。
目の前を流れる川の水は空の夕焼け色を映し、夕陽は辺り一面を美くしく染め上げている。
とても綺麗な光景だった。
…でも、今の私はそんな風に思える気分ではなかった。)

艶(もう夕方なんだ)

(体調を崩して療養しているお稽古の先生を見舞う為に、私達は今朝方早くに置屋を出た。
先生の家は島原から遠く離れた場所にあるので、着いた時にはもう太陽は西に傾き始めていた。
先生のお見舞いを済ませた後、置屋に向かうまでの束の間の時間を二人きりで過ごした。
二人で手を繋ぎながらゆっくり歩いたり、お店を眺めたりしている内にあっという間に時間は過ぎ去って、もう、置屋へ帰らなければならない。
綺麗すぎる夕暮れが、より一層淋しさを募らせる。)

艶(…帰りたくないな)

(叶わない願いを、心の中でぽつりと呟いた。
秋斉さんを困らせてしまうから、そんな素振りを見せる訳にはいかない。)

艶(…心の中でだけなら、いいよね?)

(帰りたくない。
置屋に戻ったら、私は華やかな着物を身に纏って、誰かと笑い合い、愛し合うだろう。
彼と繋いだ手のぬくもりも、きっと忘れてしまう。
私は知らず、ぎゅっと手を握り締めていた。
すっかり指先は冷えてしまっているけれど、今はまだ、ありありと思い出せる。
重ねたばかりの時は冷たいのに、繋いで指を絡め合うと、溶け合うように温かくなる彼の大きな手。
「あんさんの手はいつでもぬくい」
そう言って、柔らかく笑ってくれて。
それで、)

秋『艶子はん?』

(私ははっと意識を戻す。
いつの間にか隣に戻ってきていた秋斉さんが、私の顔を覗き込んでいた。)

艶『お帰りなさい、秋斉さん。そろそろ帰りましょうか』

(秋斉さんが手を伸ばして、私の目元に触れた。)

艶『秋斉さん?』

(指先で目尻をそっと拭われて、自分がいつの間にか涙を滲ませていたことに気付く。)

艶(いけない、私…)

(私は目をごしごしと擦って、わざとらしい位に明るい声を張り上げた。)

艶『先生が復職された時にがっかりさせないように、しっかりお稽古しなきゃいけませんね。お客さんにももっと喜んでもらいたいですし』

(得意になった笑顔を浮かべる。
振り切れるように、私は勢い良くすくと立ち上がった。)

艶『帰りましょう』

(着物を軽く払って、私は秋斉さんを見下ろした。
じっと私を見据えていた秋斉さんは、静かに立ち上がる。
さっきとは逆に私を見下ろしながら、瞬きもせずに私を見つめている。
私の心を見透かすような、揺らがない綺麗な瞳。
私は必死に笑顔を浮かべた。
微塵の隙もないように、彼に悟られないように。
張り詰めた空気は、彼の柔らかな笑みでようやく弛緩した。)

秋『へえ。帰りまひょか』

(私は肩の力を抜いて、ほっと息をつく。
そうして私達は置屋へ向かって歩き始めた。)


(夕暮れからまた少し、夜に近付いた。
秋斉さんは私の少し前を歩いている。
もう、手は繋げない。
長く伸びた影をこっそり重ねて、私はそれを追いかけた。
繋がった影は、どこまでが私で、どこからが秋斉さんなのかわからない。
それは嬉しいことの筈なのに、なぜかとても虚しく映る。
すぐそばにある尻尾にも、今は触れたいと思えなかった。)

艶(秋斉さん)

(心の中だけで、彼を呼ぶ。)

艶(秋斉さん…)

(気付かないで欲しい。
…お願いだから、気付いて。
そんな矛盾を行き来しながら、私はもう一度、彼の名を叫ぶ。)

艶(秋斉さん)

(行かないで。
そう心が紡ぐ前に、私の目の前は真っ暗になっていた。
何が起きたのかわからなくて体を強ばらせたのは一瞬のこと。
私は涼やかな香りに包み込まれていた。
秋斉さんが、私を抱きすくめたのだ。)

艶『秋斉さん?』

(秋斉さんは何も言わない。
だけどその腕の力が、言葉よりもずっと鮮明に伝えてくれている気がした。)

艶『……っ』

(けれど、それは束の間だった。
彼の体温が私に届く前に、腕は解かれてしまった。
秋斉さんはくるりと向きを変えて、再び置屋に向かって歩き出す。
私は、その場に立ち尽くしていた。)

艶(秋斉さん…)

(涙が滲みそうになる。
でもそれは、彼のせいじゃない。
きっと、夕陽が綺麗過ぎたから。
…あまりにも今日が幸せだったから。)

艶(駄目だ、早く秋斉さんに追い付かないと)

(少しずつ遠くなる彼の影を追いかけようとした。
なのに、足が動かない。
秋斉さんの隣に並んで、笑顔でこう言おう。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」と。)

艶『…っ』

(視界が滲む。
早く走り出さなきゃいけないのに、前がよく見えない。
私は再び目を擦って、涙を手の甲で拭い取った。
そして大きく深呼吸する。)

艶(大丈夫)

(顔を上げて、秋斉さんの元へと向かう。
駆けるように近付いて、その勢いのままに彼を追い越した。)

艶『秋斉さん』

(面食らった様子で目を丸くする秋斉さんに、私はにっこりと笑顔を見せた。)

艶『今日はありがとうございました。とても楽しかったです』

秋『……』

艶『少し遅くなっちゃいましたね。早足で帰りましょうか』

(ちゃんと笑顔のままで言えたと思う。
声を震わせたり、涙を滲ませたりもしなかった。)

艶(……え?)

(それなのに。
秋斉さんは今までに見たことのない、悲痛な表情を浮かべていた。
俄かには信じられなくて、私は彼から目が離せなくなってしまう。)

艶『秋斉さん…?』

(返事はない。
その代わりに、乱暴に腕を掴まれた。)

艶『秋斉さん?』

(こんな風に触れられたことなんて、今までにない。
掴まれた手首が、更にぎゅっと締め付けられた。)

艶『あ…っ』

(私の腕を引いて、秋斉さんは歩き出す。
置屋とは、反対の方向へ。)


艶(…信じられない)

(私は一人、へたりと床に座り込んでいた。
秋斉さんが私の手を引いて入った場所は茶屋だった。
私を部屋の中へと引き入れた後、素早くふすまを閉めて彼はどこかへ行ってしまった。
今起こっていることが信じられなくて、私は床に腰を下ろしたまま動けなくなっていた。)

艶(秋斉さんがあんな風になるなんて)

(何かを堪えるように細められた瞳も、力強く握る手も。
どちらも初めて見るものだった。)

艶(秋斉さん…)

(掴まれた手首を見ると、ほんのりと赤くなってしまっていた。
彼の指の形の小さなそれを、指先でなぞる。
その時、音もなくふすまが開いた。
部屋に入った秋斉さんは、私の目の前に腰を下ろす。
しばしの間の後、口を開いた。)

秋『約束してもらいます』

艶『約束?』

秋『もう、こないなことはせえへんと、わてに誓っておくれやす』

(私は目を見開いた。
秋斉さんは感情の読めない瞳で、私の答えを待っている。
小さく息をのみこんでから、私は頷いた。)

艶『はい。…もう二度と、こんなことはしません』

秋『わても、あんさんに誓います。こないことは二度とせぇへん』

(そして、ふわりと抱きしめられる。)

秋『わては楼主失格どす。藍屋の信用を貶める行為や。あんさんも遊女失格やさかい。贔屓にしてくれはる旦那はんを反古にするよな振舞いは、許されへん』

艶『はい』

秋『ええな?今回きりや』

艶『はい…』

(秋斉さんは私をぎゅっと抱きしめる。
頭を優しく撫でてから、額にそっと口付けた。)

秋『小言はここまで』

(そう言って、秋斉さんは目元を緩める。)

秋『辛い思いをさせて堪忍』

(思わず滲ませてしまった涙を拭って、私は秋斉さんの背中に手を回す。)

艶『辛い思いをさせて、すみません』

(仕事に厳しくて、いつも律する立場にいる秋斉さん。
彼が私情を優先させることを選ぶのは、どんな思いだったのだろう。
あの時私が何度も思いを抑えたように、彼もまた、自分の中で葛藤していたのかもしれない。)

秋『艶子』

(秋斉さんの唇が頬に触れた。
再び潤んでしまった目元と、瞼にも。)

秋『艶子』

(彼の甘い声色は、私に作用する。
涙がはらはらと零れて、堪えることができない。)

秋『艶子…』

(少しだけ強引に唇を塞がれた。
奪うような荒い口付け。
自分が泣いていることも忘れてしまう程に、秋斉さんは私の思惟も全て、奪っていく。)

艶『…ん…』

(息ができない。
苦しくて唇を離そうとするけれど、秋斉さんは私を捉えたままで。
背中に回した腕で、秋斉さんの着物を手繰り寄せる。
すると、さらに強く抱き寄せられて、私は甘い目眩に襲われた。)

艶『…き、なりさん…』

(唇が離れて、朦朧としながら私は彼の名前を呟く。
私を肩にもたれかけさせて、秋斉さんは耳元へと囁きを落とした。)

秋『今日は、ゆっくり抱いてあげまひょ』

艶『あ…っ』

(体の芯がぞくりと震えた。
かぷりと外耳を甘噛みされて、跳ねるような声が漏れてしまう。
秋斉さんは吐息だけでくすりと笑うと、優しく私を抱き締めたのだった。)




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