小笠原という“劇薬”の使い方 | フーリガン通信

小笠原という“劇薬”の使い方

先のベネズエラ戦のマスコミの焦点は、何といっても小笠原であった。


ドイツW杯以来の3年半ぶりの代表復帰、鹿島アントラーズの王様としてリーグ3連覇、昨シーズンのJリーグMVP、そして現代表の王様・中村俊輔の不調・・・彼が話題になる背景は十分すぎるほど揃っていた。


で、先発した小笠原はどうだったか?


彼が放った2本のミドル・シュートはいずれも見事な軌跡を残しゴール枠を捕らえた。(あえて言わせてもらえば1本目、狙いは良いがパワーがない。スナイデルだったら・・・)

岡崎に送った縦のロングパスも見事。タイミング・角度・スピード・落とし所・バックスピン、すべての要素が詰まった非常にクオリティの高いものだった。


リプレーとニュース以外ではほぼ後半しかゲームを見ていないが、彼がボールに触る機会は安心して見ていられた。多くのメディアも小笠原のプレーは評価していたし、岡田監督も非常に満足していた。


かくして、この“遅れてきた大物”は、十分にその存在感を示し、その“救世主度”も一気に高まった・・・


ちょっと!ちょっと待って欲しい。アントラーズ・サポの反感を買うかもしれないが、私は言っておきたい。


「岡田さん、そんなんでいいの?」


私に言わせれば、小笠原の個人のパフォーマンスは全く心配していなかった。あれくらいできて当たり前。あの程度で「素晴らしい!」と感心しているようでは、むしろ小笠原に失礼。バカにするなという話である。


今回海外組を呼ばないという事情は確かに小笠原を招集するキッカケにはなっただろうが、ここで彼を加えたということは、俊輔や本田の代わりではない。岡田監督は小笠原という完成された部品を加えることで、代表のレベルアップ、新たなオプションを求めたはずである。


その狙いは攻撃の活性化にあった。だから岡田監督は小笠原をMVPを取ったボランチのポジションではなく、攻撃的MFに入れたのである。従って今回の小笠原の評価は、彼個人のパフォーマンスではなく、彼が入ったことでチームとしての攻撃が良くなったか否かで判断すべきである。


その視点から改めて振り返ると、日本の攻撃は決して「非常に満足」な内容とはいえなかった。相手が引いたとはいえ、中澤と闘莉王の前で遠藤と稲本がダブルボランチとなった守備陣の安定は誰もが認めるところだが、小笠原を評価する声は聞こえても、彼が加わった攻撃を評価する声はどこからも聞こえてこない。


攻撃がちぐはぐだったの原因は小笠原の“影力”にあったと私は思っている。周囲が小笠原をリスペクトするのは良いのだが、小笠原に頼りすぎた。


キープ力がある小笠原はボールの収まりが良い。それでいて視野が広く技術が確かだから、任せておけば適切なところにボールをつなぐことができる。


しかし、その結果、普段は前方へのパスの出し手であろうとする憲剛はどこかに消えた。遠藤も稲本も攻撃は小笠原に任せて、前線への飛び出しは抑え目であった。岡崎と大久保は小笠原からのボールを引き出そうと前線で動きが重なった。小笠原も憲剛も中でプレーするためにサイドは空くのだが、SBが上がるタイミングが合わず普段あれだけ拘るサイド攻撃もその「精度」以前に「機会」が少なかった・・・


そう。良いポジショニングでフリーになり、ボールを受けて、ためをつくり、パスを供給する。一人で何でもできてしまう小笠原という選手が入ったことで、普段はそれぞれの役割を分担して機能していた日本の攻撃は軽い機能不全に陥ってしまったのである。


各駅停車のトラップをはさんで、足元から足元に繋がるゆるいパス・・・まるで4年間に戻ったような日本の攻撃は、オシム時代に見られたダイナミズムをすっかり失っていた。岡田監督の“コンセプト”は変わっていないはずなのに・・・


小笠原は優れた選手である。今回のゲームでも明らかになったように、その個としての能力に疑問の余地はない。しかし、彼を一度も招くことなく3年半を過ごしてきた日本代表にとって、影響力のある彼は一種の“劇薬”である。効き目はあるが、その副作用も大きい。


万が一のときの備えに常備はしておきたいが、彼を使う時は、彼に合わせた戦術を取らなければならない。小笠原は岡田監督の言うことは理解はできるだろう。理解とプレーは違うもの。頭で理解はしてもプレー・スタイルはそう変わるものではない。だから、彼を俊輔の代わりに使うと言うことは、これまでの戦術を捨てることを意味する。岡田監督にそれができるとは思わない。かといって使用しないで取っておけば“腐る”ことはドイツで証明済み。今となっては使い方が難しい。


そういえば前任者のオシムも小野や小笠原を招集しようとしなかった。その理由が私にはわかったような気がした。


お前の勝手な思い込みだろって? そうかも知れない・・・


魂のフーリガン