2発の“ヒジ打ち”について思うこと | フーリガン通信

2発の“ヒジ打ち”について思うこと

この一週間でFootball界では2人の"ヒジ打ち”犯に処罰が下された。一人はレアル・マドリードのクリスティアーノ・ロナウド、もう一人はマンチェスター・ユナイテッドのリオ・ファーディナンドである。


ロナウドは1月24日のリーガ・エスパニョーラ第19節、レアル・マドリード対マラガで前半2得点を記録したが、後半25分、ドリブルに入ったロナウドのユニフォームを掴んで追いすがるマラガのパトリック・ムティリガをを振り切ろうと腕を大きく回し、その顔面に右ひじを“入れた”。このプレーを見ていた主審は迷わずにレッドカードを提示。翌日マラガよりムティリガの鼻骨骨折と一週間の静養が発表された。


スペインサッカー連盟の競技委員会は26日、相手の負傷を引き起こした危険なプレーに対し2試合の出場停止処分を科し、レアル・マドリードに180ユーロ(約22000円)、ロナウドに600ユーロ(約75000円)の罰金も科した。


リオは1月23日のプレミア・リーグ第23節、マンU対ハル・シティの前半に自軍ゴール前の空中戦でハル・シティのFWクレイグ・フェイガンと競った際に、後ろに大きく回した右ヒジがフェイガンの顔面に“当たった”。フェイガンはそのまま地面に叩きつけられ蹲った。しかし、審判は事件現場を見ておらず、ゲームではファーディナンドには警告すら与えられていない。一方のフェイガンは後半に警告を受けている。 

リオの“行為を摘発したのはSKYの映像であった。イングランド・サッカー協会(FA)の規律委員会がSKYからビデオを入手し、その場面を“暴力的行為”と認定。3試合の出場停止が課せられた。

しかし、身の潔白を主張したリオは27日のカーリング杯マンチェスター・シティ戦に出場。FAの決定を不服として控訴したために規律委員会は出場停止を1試合追加し、計4試合の出場停止とすることを決めた。


足でボールを扱うからFootball。手でボールを扱ったら即ファウル(審判が認識しなければファウルにはならいのだが・・・)、ボールを触らなくとも手を不当な目的で使用することは禁じられる。


“ハンド”以外で不当な目的で手を使った場合の罰則の軽重はその使い方の程度による。まず最初の基準は、偶然によるものか、故意によるものか。


そして、故意の場合は、自らのプレーを遂行するためか、相手を邪魔するためか、そして相手を傷つけるためか。後者に行くほどその罪は重い。


私自身はFootballの神様ではないから判決を下す立場ではないのだが、Youtube等の映像を観た上での主観を述べさせてもらえば、ロナウドの故意は明らかである。彼はほんの一瞬であるがその右後方を一瞥し、ムティリガの位置を確認している。右腕での“ハンズオフ”は相手を振り切るための行為として許されるものだが、その力の入れようは「一発かまして黙らせよう」という意図が見て取れた。従って、審判の判断もスペインサッカー協会の判断も妥当なものである。


しかし、もう一方のリオの場合、判断が難しい。大きく振り回した手が強く相手に当たったことは確かだが、私の見た限りではリオは競り合いでバランスを崩し、その身体は明らかに背を向けていた。彼のヒジ(というか裏拳辺り?)打ちが故意であったかもよく分からないし、むしろ不可抗力のようにも見える。プレミアでは珍しくないシーンで、相手もその場で倒れはしたがケガもなく、その後もプレーを続けている。リオがFAの決定を控訴し、ファーガソン監督もリオの追加処罰の可能性を知りながらシティ戦にリオを出場させたのは、リオの無実を訴える強い抗議であろう。


それにしてもFAの判断は腑に落ちない。FIFAは“アンリのハンド”においても「審判の判断が最終のもの」という姿勢を通したが、FAはゲーム後のビデオ判定で一方的に処罰を決定した。しかも、ファウルすら取られていないプレーに対し、故意で相手にケガを負わせたロナウドよりも重い(ロナウドは退場の時点で次節の出場停止は決定している)4試合の出場停止とは重過ぎはしないか。国が違うとはいえ・・・



手を使ってはならないFootballだが、“手”は大きな武器になる。かつてマラドーナと対戦した日本代表選手は(前田か都並だったと思うが)、小さなマラドーナの“ハンズオフ”の並外れた強さに驚嘆したという。現在フランスのグルノーブルに在籍する松井も、「欧州に行って覚えたことは何ですか?」との質問に対し、「手の使い方」ですと答えていた。ドリブルの際に手で相手を引き離すと言うのだ。彼らの発言には改めてFootballが「格闘技」であることを認識させられる。


ロナウドもリオも、今回の一件で彼らの激しいプレーが変わることはないだろう。闘う意志の強さがスーパースターの証なのである。


そういえば、強行出場したシティ戦でリオは平気な顔をしてテベスを何度も削っていた。削られ続けたテベスもまったくビビることなく、意地のゴールを古巣のゴールに叩き込んだ・・・


そして、今週末も世界中のピッチ上で“手”が使われる。ヒジ打ちだって何発も入る。


それでいい。それがFootballなのだ


魂のフーリガン