喜望峰から見る夕日 Part 1 | フーリガン通信

喜望峰から見る夕日 Part 1

いよいよ2009/2010のシーズンが始まったというのに、今回がシーズン最初の発信となる。相も変わらず忙しさを理由に怠慢をこいている訳だが、それ以前に今一つ私の魂のノリが悪いことも事実である。その理由は先の日本代表の欧州遠征・・・


オランダに0-3、ガーナに4-3と、来年のW杯出場国を相手に1勝1敗に終わった岡田一族のツアーに関しては、既に多くの方々が詳細に語っているし、今更それらゲームそのものについて後追いで語るつもりもない。しかし、一方で何かを語っておかないと、魂に引っかかる違和感もなくならず、何かすっきりしない。なので、今回はその違和感を吐き出したい。


吐き出す内容は次の通り。

1.日本は「世界4位」になれるか?

2.日本は「世界を驚かせる」ことができるか?

3.日本は「グループリーグを突破」できるか?

言うまでもなく、この私の魂の上の方、つまりもう咽喉から出掛かっている順番に並んでいる。


1.日本は「世界4位」になれるか?


もったいぶっても仕方がない。答えは“NO”である。僅かの期待も無い。誰が何と言ってもNOはNO、その事実は変わらない。W杯アジア予選では、明らかにオーストラリアに水を空けられたことが露呈した。オランダとの親善試合では欧州の強豪にはとても歯が立たないことが判った。結果的に勝利したガーナ戦でも、明らかに個々の能力の違いを見せつけられ、チームの中では世界に通用するレベルと思われていた中澤、闘莉王といった中央の守備がいとも簡単に切り裂かれた。


今回の欧州遠征の目標は、オランダやガーナとの対戦を通して「世界との距離を知る」ことだった。そして我々は、その距離がまだ非常に長いものであることを知った。確かに目標は高く設定すべきだし、そういうストレッチゴールを設定することは間違ってはいない。しかし、何度も言うように、現実の能力と目標の高さの間に存在する距離を見誤ってはいけないのだ。正しく把握してこそ、その距離を縮めるために論理的なアプローチを策定することが出来る。


距離を正しく把握することと同様に、目標を正しく設定することも重要である。即ち、目標を設定するためには、そこに設定する根拠が必要なのである。恐らく岡田監督は2002年の韓国やトルコの躍進を意識して「世界4位」という目標を設定したのだろう。特に同じアジアのライバル韓国が出来たのに、日本も立場上あまり控えめな目標も立てられなかったのかも知れない。しかし、それにしてもいきなり4位とは、やはりあまりにも現実離れした目標といわざるを得ない。


まず、我々は2002年の韓国とは事情が全く違うことを承知すべきだ。韓国が勝てた理由は以下の通りである。

①全試合ホームゲーム(選手の高いモチベーション・圧倒的な応援・有利な判定)

②アジア特有のくそ暑さ(夜でも高温・多湿の中での消耗の激しさ)

③有名選手のコンディションの悪さ(シーズン直後の欧州強豪クラブ中心選手/特にレアルの選手

④ヒディンクによる長期間のフィジカル強化

もちろん、韓国の4位という成績を評価しないわけではない。あの真っ赤なスタジアムにも負けないくらいの燃える闘志を見せた選手達には素直に感動した。しかし、あの結果を残す過程には無視できない要因もあったということだ。


これら①~④の内、では南アフリカで日本が期待できる要因は・・・ゼロ。①~③は外的要因であるが、①については南アフリカ以外はアウェーだから他国もほぼ同じ条件、②は南半球の6月は冬であるから各国とも北半球の大会のような悲惨な消耗はない。③は国内でリーグとカップ戦のタイトルを争い、欧州CLに最後まで残るようなクラブの中心選手は皆同じ問題を抱えるが、それに対応してここ数年の強豪クラブも急激に選手層を厚くしているため、以前に比べ中心選手の疲弊は軽減しているだろう。


唯一内的要因である④選手のフィジカル強化については、やろうと思えばできることだが、今のところ岡田監督にその動きは見られない。フィジカル強化(特に走力・持久力)が必要なサッカーを目指しているにも関わらず、そのための専門のコーチを加えたという話も、その為の長期合宿を行うという噂も聞こえてこない。当時の韓国が国家指令として代表強化を最優先できたのに対し、景気後退の影響でクラブの存続すら危うくなってきているJリーグの状況下、サッカー協会もJリーグを無視して代表強化を優先するようなことは出来ない状況にあるということは容易に想像がつくが・・・


しかし、改めてカレンダーを見ると大会開幕まであと8ヶ月。前述のような外的な好条件を一切期待できない中で、残念ながら、短期間で現在のチーム力を大幅にアップするような魔法はそうそうないだろう。かといって個人の力でチームを牽引するような救世主も存在しない。オランダ・リーグの新参クラブで活躍が目立つ本田や、セリエAの中位以下のクラブでやっとFWに定着したばかりの森本がこれだけ騒がれること自体が人材不足の証明であろう。同じ監督で、同じ選手が見せる同じサッカー。それでいながら、いまだに「敗北」を容認しながら「世界4位」を連呼するマスコミやサポーター。信じる者は救われる?馬鹿な、宗教でもあるまいに・・・


さらに信じられないことに、選手たちの中からも「W杯ベスト4」を疑問視するようなコメントが聞こえてこない。指揮官が立てた目標に対し反論すれば、代表には呼ばれないと恐れているのだろうか。「出来っこないよ」と腹の中で思いながら、表向きには「やろうとしていることは正しい」、「目標は世界4位!」と言い続ける。自分達の本当の力を、世界との距離を身をもって知っている選手達こそ、一番大きな違和感を感じているはずだ。違うか?


選手、マスコミ、サポーター。皆そろそろ思っていることを正直に語るべき時ではないだろうか。現実を正しく見つめて、今出来ることから確実にやることが、結果として目標に近づく最適の手段となる。無理な一歩を狙って失敗するよりも、二歩、三歩かかって着実に目標に近づく。そういうアプローチもあっていい。


前述の通り、高い目標を立てそこに到達するために努力した結果、以前よりレベルが上がるという方法論も確かにあろう。しかし、この手の目標設定には大きな欠点がある。それは、終わった後に誰も責任を取らないということだ。元々「無理だ」と思っている目標であるから、「頑張ったけど仕方ない」で済んでしまうのである。もっとも恐ろしいのは日本サッカーには、実際にそういう曖昧な傾向があるということだ。


W杯後に岡田監督は退くだろう。しかし、彼にその先まで契約があるわけではないから、彼は責任を取っての更迭ではない。そして、岡田のサッカーを承認し、岡田体制を推進してきた責任者であるはずのサッカー協会幹部もまた、誰も責任を取らない。そして総括も反省もないまま、次期監督を選び、その監督に責任を負わせるのだ。


振り返って見よう。2006年、サッカー協会が最大限の信頼を寄たはずのジーコ・ジャパンのドイツW杯。そして2008年、「メダルを獲る」と言い続け不安の中で続投した反町ジャパンの北京オリンピック。いずれも期待を大きく裏切る惨敗であったが、その後日本サッカー協会の幹部は責任を取っただろうか?責任ある立場での総括や反省はあったか?何の責任もないような顔をしたまま川淵氏から犬飼氏に会長の顔は変わったが、日本サッカー協会の無責任な体質は全く変わっていない。反省がないから対策も出ない。問題を先送りしているから進歩もしない。今の日本サッカーの停滞の原因は、中田や小野のような才能ある選手がいないからではないのである。


思えば日本サッカーはもはやアマチュアスポーツではない。選手もプロ、監督もプロ、そしてそのスポーツを推進する責任者は当然プロの経営者であるべきである。しかし、現在の日本サッカー協会幹部はまるで名誉職、安定株主に胡坐をかいた同族会社の無能経営者に見えてくる。どうでもいいようなことに対しては偉そうに口を出すが、肝心の日本サッカーの強化に関しては経験も理論もないから何も言えない。できるのは事業担当者の首を変えるだけ。この悪しき体質はそろそろ断ち切らなければならないだろう。


だから私は改めて、声を大にして言いたい

日本は「世界4位」という誰も責任の取れない目標を、今すぐに取り下げるべきである。

もし取り下げないのであれば、その勇気すらないのであれば、その結果に対して、今度こそ日本サッカー協会として責任を取らなければならない。監督に責任を取らせてお茶を濁すのではなく・・・


では、2.日本は「世界を驚かせる」ことができるか?については次回に語ろう。


魂のフーリガン