ホワイト・サマー・バーゲン2009!!
前回通信でレアル・マドリーのこの夏のお買い物を総括したが、それだけでは片手落ちだろう。いくらお買い物好きとはいっても、ピッチには11人しか立てないのがFootballである。いくらたターン・オーバー制で同じポジションに同等の選手を複数用意するといっても、欲しいものをどんどん食べているだけではメタボ体質になり、ファーガソンが指摘するように、明らかに「バランスを欠く」ことになる。
経営の観点から見ても「在庫は罪悪」。在庫が適正水準を超えたら処分しなければならないのは、会社経営者であるペレス会長にしてみれば当然の話。そこで、前回のお買い物に続き、今回は売り物を整理しよう。
前回7品のお買い物をご紹介したが、さすがペレス会長、一方で既に8つの品物を整理している。その品目を売値(移籍金のみ)で並べてみると・・・
品物 原産国 種類 売値 お客様 備考
クラース・ヤン・フンテラール オランダ FW €1500万 ACミラン インセンティブ付き
ハビエル・サビオラ アルゼンチン FW €500万 ベンフィカ・リスボン
ダニエル・パレホ スペイン MF €300万 ヘタフェ レンタル戻り再放出/買戻しOP
ガブリエル・エインセ アルゼンチン DF €150万 マルセイユ 07年に€1200万で獲得
クリストファー・ショルヒ ドイツ DF €100万 1FCケルン 07年に€60万で獲得
ファビオ・カンナバーロ イタリア DF €0 ユベントス 契約満了
イェジー・デュデク ポーランド GK €0 ? フリー獲得⇒契約満了
ミチェル・サルガド スペイン DF △€α※ ? 合意の上で契約解除!!
合計 8 品 €2,550万 = 約34億4千万円+α(\135/€1.00)
注※: 功労者サルガドは契約をまだ1年残しての契約解除。まだ現役続行の意志のあるサルガドにとって移籍金ナシで次のクラブ探しが容易になるという利点もあるが、契約は契約、合意の上とはいってもレアルは中途解約の違約金αをサルガドに支払うことになるだろう。
さて7品買って、8品を処分したのだから、倉庫のスペースはお買い物前とほぼ変わらない。従ってこれ以上の在庫処分は不要とも言えるが、その売値総額は買値総額の約1/10。やはり要らない物は安い。従ってこの夏の営業活動の収支はまだ300億円を超える大赤字なのである。
夏の買い物にすっかり満足した白い巨人も、できればまだまだ要らない物は減らしたい。それが経営というものだ。当然のことながら、欧州の各クラブはそんなレアル・マドリーの「ホワイト・サマー・バーゲン」を待っている。
他ならぬペレス会長の積極的なお買い物の影響で、今年の夏の品動きは活発で各クラブぼぼお買い物は終了したかに見えるが、サマー・バーゲン期間は8月31日まで。期限間近の「ファイナル・セール」で、“白いお買い得品”を少しでも安く手に入れようと、水面下で動いているのだ。
ではファイナル・セールで出品される可能性のある目玉商品を並べてみよう。
出品候補商品 原産国 種類 希望価格 見込客 備 考
ヴェスレイ・スナイデル オランダ MF €2500万 インテル 07年€2500万で購入/落札相場€1900万
ラファエル・ファン・デル・ファールト オランダ MF €1300万 インテル 08年€1300万で購入/移籍志願中
アリエン・ロッベン オランダ MF €2500万 ?? 07年€3600万で獲得/故障の多さがネック
アルバロ・ネグレド スペイン FW €1200万 ローマ 09年買戻しオプション€500で獲得/再放出?
フェルナンド・ガゴ アルゼンチン MF ?? ユベントス EU選手枠内(イタリア・パスポート所有)
ゴンサロ・イグアイン アルゼンチン FW ?? ?? 06年€1200万で獲得/昨季クラブ得点王
ルート・ファン・ニステルローイ オランダ FW ?? ?? 06年€1500万で獲得/故障中で高額週給
単価を見れば、その多くがいずれもこれまでに売れた品物よりも高い価値のある品物であることが分かるだろう。当然のことながら、購入時の価格と希望小売価格を比べれば、これら品物の販売でレアルが損をしたくないという想いは伝わってくる。レアルにすれば「ウチは別に売らなくてもいいけど、この値段なら売ってやってもいいよ」、一方の見込み客にすれば「どうしても欲しいわけじゃないけど、この値段まで下がれば買ってやってもいいよ」という正反対の立場の交渉になる訳だが、明らかに在庫金額が適正水準を超えていることが分かっているだけに、これから先は買い手が有利になると思われる。
これらの商品の内、スナイデル、ロッベン、イグアインは最近のシーズン前準備マッチにも出ているし、レアル側も「放出の意志はない」とコメントしている。確かにいくら夏の収支赤字でも、キャッシュフローに問題なく、投資回収の見込みがあれば、倉庫が足りない訳ではないので問題はないかもしれない。しかし、裏を返せばレアルの姿勢も「ウチで必要な選手なんだから、安い値段じゃ売らないよ」という無言のアピールとも見て取れる。レアルがセール期間内にどこまで売りさばいて収支の赤字幅を減らせるか、どこのクラブがレアル相手に上手い買い物をするのか、今年のホワイト・サマー・バーゲンの行方は最後まで目が離せない。
しかし、「売る・売らない」の話はあくまでもクラブ側の都合である。売れなきゃ在庫しても良いと開き直るレアルも、重要な真実を考慮しなければならない。それは、これらの“品物”は皆、その一つひとつが“魂”を持った人間だということである。彼ら自体が商品なのではく、彼らのパフォーマンスにこそ商品価値が存在するからである。実力もプライドも自信もある優秀な選手達が、レアルの一方的な飼い殺し状態に満足できるだろうか。
しかも、その全てが自国代表クラスであることが、更に大きな問題を引き起こす。裏の事情はもちろん、来年に控えた南アフリカW杯である。ワールドカップ出場は全てのFootballerの夢であり、その場所に行くためにはまずは自国の代表選手に選ばれなくてはならない。しかし、レアル・マドリーでロナウド、カカ、ベンゼマの控えに回り、プレーする機会が失われたら・・・。
そう、代表監督にアピールする機会がないだけでなく、実戦から離れることでゲーム感が失われる。ただでさえ選手としてのピークが短い競技において、4年に1度しかない機会を失いたくないという思いは選手として当然のことで、自律性を備えたプロフェッショナルであろうとも、その境遇はモチベーションに影響する。
フロントや監督への不信感、チームワークの乱れ、それらをコントロールしなければならないペジェグリーニの心労も半端じゃないだろう。ファーガソンが指摘する「バランスの乱れ」という警鐘は、まさにこのポイントに対してのことなのである。やはり賢人の言葉、耳を傾ける価値がある。
もう一つ上のリストを見て気が付かないだろうか。そう、ファイナル・セールの目玉品の殆どは“オレンジ”だということ。前回のリーガ連覇の際には大きな貢献を果たしたオランダ人達が、ペレス船長の下、再び遥か銀河系を目指して大きく舵を切ったクラブの中でその立場が危うくなってきたのである。
既に代表に未練のないファン・ニステルローイはレアルでの引退を希望しているが、他の選手達はまだまだ他なら暴れられると思っているだろう。スナイデル、ロッベン、ファン・デル・ファールト、皆メタボ状態のレアル以外のクラブであれば中心選手として活躍できる選手達だ。高い値で決まりかけたシュツットガルトを蹴って、ミランに行くことになったフンテラールのように、まだまだ大きな野心を持っている。
W杯欧州予選でグループ9を7戦7勝16得点2失点と快調に飛ばすオランダ代表でストレスを発散できるなら良いが、一方でその実力がクラブで過小評価されるように感じ出したら・・・集団心理は力学的に大きな作用を生み出すことがあるが、そこに民族の結束力が加われば大きなパワーを生むだろう。高い値で売れないまま彼らが残留した場合、これもまたペジェグリーニの悩みの種になるだろう。
何、大久保も同じ?・・・冗談じゃない。チンピラ大久保のセコイ考えと同等に扱うこと自体が、レアル・マドリーという偉大なクラブに対する冒涜である。
魂のフーリガン