「アジアで4位」・・・カタール戦に見た現実 | フーリガン通信

「アジアで4位」・・・カタール戦に見た現実

「ホームでいい試合を見せたかったが、選手を生かすことが出来ませんでした。申し訳ない。」


・・・ゲーム後の岡田監督の謝罪の言葉である。私は思わず先のWBC世界フライ級タイトルマッチで王者内藤が、判定で5度目の防衛を果たした直後に観客に向かって発した言葉を思い出した・・・


「このためにわざわざ来てくださったお客さんに、こんなしょっぱい試合を見せてしまって済みませんでした。」


期せずしてほぼ同じコメントとなった訳であるが、内容は異なる。負ければタイトルを失う王者・内藤に比べ、結果がどうであれW杯出場権は失わない日本代表。一度ダウンを喫していながら持ち返し3-0の判定で勝った内藤、挑戦者に苦戦し引き分けた日本代表。どちらがより“しょっぱかった”かは一目瞭然であろう。


事実、闘莉王は自ら「腐った試合」と怒りを込めて吐き捨てた。その通り、日本-カタール戦はしょっぱいどころか、「とても食えたものではなかった」。


岡田監督の不在、遠藤と長谷部の欠場、審判の怪しいジャッジ、ウズベキスタン戦後の疲労、W杯出場決定後のモチベーション低下と気の緩み、カタールのモチベーションの高さ・・・


苦戦の理由を上げればきりがない。しかし、どんな理由があろうと、たとえ不利な条件があったとしても、戦っている以上は全て覆して結果を出すのが「強豪」である。内藤大助はそれを実践して見せたが、日本は最後まで我々に何も見せてくれなかった。そう、カタール戦の日本には「内容」も「結果」も存在しなかった。


私は常々「日本と世界の距離」について語ってきた。日本はまだまだ南米・欧州の世界標準から離れた位置にいる。距離があること自体は問題はない。重要なのは、正しくその距離を把握することなのだ。客観的な目でその位置を正しく把握していれば、強みと弱みを正しく認識していれば、然るべき指導者の下で日本は強くなる。Jリーグの発足以降、強くなるための土壌は着実に出来ている。あとは強化のアプローチを間違わなければ良いのだ。


しかし、多くの人はその「世界との距離」を見誤る。何も分かっていない人たちが、その場その場で一喜一憂し、大衆を誤解させる情報を無責任に垂れ流すからである。そして牧場の中しか知らない迷える子羊たちは、彼らでいくら儲けるかということしか考えない羊飼いに導かれ、過度な自信と期待という毛を纏って行く。やがてむしり取られるとは知らずに。


ウズベキスタン戦の苦戦の真実も、「W杯予選最速突破」という派手なベールに隠された。アウェーとはいえ、自らのアイデンティティとしてあれだけ拘っていた「自分達のサッカー」が何も出来ないまま、辛くもしのいだという悲惨な「内容」は、運よく付いてきた「結果」に隠された。しかし、一番ほしかった「結果」が手に入ったから、あえてその「内容」を問う人は殆どいなかった。


そして迎えたカタール戦は、最終予選で最も組み易しとされた相手だけに凱旋ムード一色。観客の多くは迂闊にもキリンカップで信じてしまった「強い日本代表」を見にスタジアムに集まったはずだ。強い日本、当然のことながら「内容」も「結果」も、その両方は戦う前から日本のものだった。そして開始わずか2分のラッキーな先制点で、観客の期待は一段と高まったが・・・


カタールがまだ3位の望みを残していたこと、セバスチャンを始めとする主力を欠いて野心豊かな18-20歳の若手中心のチームであったことが、カタールに最後までモチベーションを維持させたのかも知れないが、日本は格下と思っていた相手にも「自分達のサッカー」を見せることが出来なかった。そしてゲームの後になってはじめて、多くの観客は気付いたことだろう。キリンカップの日本代表が“幻想”であったことに。そして目の前の日本代表が真実であるということに。


今回のアジア最終予選で日本は組み合わせに恵まれた。グループ1は、オーストラリアと日本の力が突出しており、戦前の予想通りその2カ国が予選突破を決定した。一方、強豪が集中し混戦が予想されたグループ2では、まず韓国が突破を決めたが、最終節を残して北朝鮮、サウジアラビア、イランが2位の座を争っている。


日本は最終節でオーストラリアを倒せばグループ1位となるが、現時点では勝ち点で2つ上回り、全7戦無失点のオーストラリアの方が力は上と見るべきだろう。韓国はFIFAランクでは日本より下であるが、タフなグループ2を日本と同じ勝ち点、同じタイミングで勝ち抜けた実力と、W杯での実績を考えればこれもまた日本の上とすべきだろう。


では、北朝鮮、サウジアラビア、イランと戦って日本は勝てるだろうか。バーレーン、カタール、ウズベキスタンにあれだけてこずった日本が・・・


「世界で4位」が目標なら、「アジアで4位」が現状のレベル・・・そう言えば2007年のアジア杯での日本の順位も4番目だったっけ。


しかし、だからと言って日本の弱さを嘆き、危機感を煽るだけでは、それもまたまったく意味のない作業である。むしろ、「腐った試合」だからこそ学ぶことは多い。だから、私は今回のカタールに大いに感謝している。その理由は日本の覚醒を促してくれたからである。日本サッカー協会、監督、選手、サポーター、マスコミ、その多くが「日本は決して強くない」という真実を、今は多くの人々が素直に受け止めている。


悪いことではないのだ。大事なのは、自分の弱さをできるだけ早く知ることであろう。今日の弱さを認めることが、明日の進歩のスタートだからである。そして、自分達の中にある負の要因をとことん追求・分析して、次のゲームまでに修正する努力をするのである。ここで注意すべきは、自分達の外にある要因は徹底的に無視することである。他人や環境にいくら苦情を言っても、それは結局自分では解決できないことなのだから、とっとと忘れて自分達の欠点修正に集中したほうがいい。


本大会まであと1年。今の日本がこれから急に強くなることは不可能である。早々に親善試合でしか具現化できない「自分達のサッカー」という幻想への執着は捨てて、一歩一歩出来ることを確実に続けて行くしかない。それが結果として「世界4位」への近道なのである。たとえ、それが2010年でなくても・・・


慌てることはない。Footballとはそういうものだ。


魂のフーリガン