世界を驚かす覚悟? | フーリガン通信

世界を驚かす覚悟?

「世界を驚かす覚悟がある。」・・・ご存知の通り、6月6日アウェーでのウズベキスタン戦後、めでたく4大会連続のW杯出場を決めた日本代表選手達が着用したTシャツの胸にプリントされたコピーである。


しかし、今回の選手の胸を誇らしげに飾ったコピーに、私は「おや?」と思った。いつの間にか「世界を驚かす」という表現に「覚悟がある」という言葉が繋がったからである。


「世界を驚かす」と「世界を驚かす覚悟がある」。皆様はどちらの表現に力強さを感じるだろうか。言葉尻を捕らえるのは大人気ないと思われるかもしれないが、私には元々断定的であった「決意表明」に、わざわざ「その覚悟がある」という言葉を繋げたことで、決意の達成に対する弱気、言い換えると達成できなかった時に「覚悟はあったんだけど・・・」と言い訳ができる余地を設けたように感じるのだ。


「世界を驚かす」という言葉は、岡田監督が「W杯ベスト4」と共に繰り返し述べてきたものであり、両者は同義語であろう。要するに「世界も驚かす」ためには、「W杯ベスト4」という結果が伴わなければならないということ・・・


確かに成長するためには「目標」を立てることは必要であり、その目標は頑張らないと届かないくらいの高さに設定すべきである。しかし、いくら高い目標といっても、それがどう考えても届かない高さのものであれば、逆にシラけるだけである。実際にサッカー関係者の中でも「その意気は結構だが、客観的に見てベスト4は厳しい」と見るのが一般的である。


本大会出場が4回連続といっても、日本の過去の3回の通算成績は2勝2分6敗2分。このうち自国開催2002年大会でのホームの成績を除けば、“5敗1分”の惨敗である。(どこかのTVでは「アウェーで5敗1分」と言っていたが、これはアウェーの成績ではない。対戦相手のホームでもない“中立国”での対戦成績である。)残念ながら、これまでの本大会では日本は前評判を下回るその弱さで、逆に「世界を驚かせて」来た。


今回のアジア最終予選でも下位チームが星の喰い合いをしてくれたから良かったが、実際にはバーレーンやウズベキスタン相手には大いに「驚かされた」。アジアの中位国相手でそんな状態であるから、日本は間違いなく南アフリカでも世界を相手に「驚く」ことの方が多いだろう。自身が86年メキシコ大会でベスト4になったベルギーのベルコーテルン監督は、キリン杯で日本に0-4の惨敗直後にも関わらず、日本の「W杯ベスト4」という目標について「言うは易し」と切り捨てたのも決して負け惜しみではない。


そんなレベルの日本サッカーであるから、「W杯出場」という目標を達成し、いざ「本大会で4位」という目標が現実に目の前に聳え立った瞬間に、「驚かす」という表現が「驚かす覚悟がある」という弱い表現になってしまったのではないだろうか。


もし誰も本気で「W杯4位」なんて思えないのであれば、一度立てた目標であっても、それを修正しても良いはずだろう。むしろ現実を正しく見つめ、自らの弱みを認め、それに対して取り得る最適な対策を打つ。今の日本代表に必要なのは、そんな冷静な作業のような気がする。


「世界4位になる覚悟がある」・・・同義であるはずの目標をくっつけてみた。その虚しさが分かるだろう。今更、“当たり前の覚悟”を問う必要はない。


そういえば「絶対に負けられない戦いが、そこにはある。」という、耳にタコができるようなテレ朝のキメ台詞コピーだって、見方によってはこう突っ込める・・・「えっ、勝たなくてもいいの?」


コピーライターという職業って、本当に必要なのだろうか?



魂のフーリガン


追伸: 選手諸君、南アフリカW杯出場権獲得おめでとう!