魂の賛歌-欧州CLファイナルに寄せて | フーリガン通信

魂の賛歌-欧州CLファイナルに寄せて

ご無沙汰している。お恥ずかしいことに、最近はもうすっかり「月刊フーリガン通信」化しており、時々はチェックしてくれているであろう数少ない読者の皆様には誠に面目ない。しかし、今月は恐らく最低2通は発信するだろう。それは5月27日に欧州CL2008-2009の決勝が行われるからである。


ローマのスタジオ・オリンピコで行われる決勝戦は誰もが注目するカードであろう。それは今回の両クラブこそが決勝を戦うに相応しいクラブだからである。


「我が宿命」、愛しのマンU(私は個人的な嗜好は隠さない)は、昨年の欧州CL覇者で、12月には横浜でクラブ世界王者の称号も手にした。そして、今シーズンも世界で最も高いレベルといわれるプレミア・リーグで、現在2節を残して2位リバプールに勝ち点6の差をつけて首位を走っている。2試合で引き分け一つ、勝ち点1を取れば優勝が決まる訳で、恐らく彼らは運命の27日をプレミア・リーグの覇者としてを迎えるこになるであろう。残念なことに価値あるFA杯(日本で言う天皇杯)こそ準決勝のPK戦でエバートンに敗れたが、既にカーリング杯(日本で言うところのナビスコ杯)を勝ち取っており、クラブW杯を含てのシーズン“4冠”に手が届いている。


一方の「我がコラソン」、麗しのバルサ(ここでも嗜好は隠さない)も、今シーズンはバルサのカンテラ出身としては初の監督、伝説の“ドリームチーム”の主役であったジュゼップ・グアルディオラの下、圧倒的な攻撃サッカーでリーガ・エスパニョーラを独走。終盤に選手の怪我と疲労で若干ペースを落としたが、現時点で偶然にもマンUと同じく優勝まで勝ち点1。2位レアルを敵地サンチャゴ・ベルナベウでのクラシコで粉砕し、優勝を遮るものは見当たらない。CL準決勝でチェルシーとの消耗戦の後も、13日にはスペイン国王杯を制し、こちらも再び“ビッグ・イヤー”を獲得し、「夢の3冠」によりこのチームをクライフ監督時代の“ドリーム・チーム”を超える伝説にしようとしている。


要するに、昨シーズンの各国王者および競合国の上位クラブで争われる欧州CLにあって、今回の決勝戦はまさに今シーズン、現段階で最も強いクラブ同士の正真正銘の闘いとなるのである。はっきり言おう。この歴史的な決勝戦を見ない奴はバカである。普通のバカではない。「大バカ」と呼ぼう。


・・・と勝手に盛り上がっているが、フットボールで“本当に楽しい”のは今なのだ。27日は楽しんで観ていられない。共に愛する「宿命のクラブ」と「魂のクラブ」の対決なのである。全ての展開にハラハラ・ドキドキするのは間違いない。そして闘いが終わっても、複雑な思いが交錯するだろう。


ついに1988-89の“3冠”を超えるマンUの栄誉を喜ぶ一方で、今シーズンのバルサが将来語り継がれる伝説とならなかったことを嘆くか、それとも、バルサの攻撃サッカーの戴冠に感動でうち震えながら、ファーガソンの下で若手からベテランまでがバランスよく揃い、魂・技術・パワー・スピードの“四位一体”を実現したレッド・デビルズが明日の希望を見失うほどの嘆きの瞬間に立ち会わなければならない。


私が好むと好まざるとに関わらず、ローマで決勝戦終了のホイッスルが鳴った瞬間に、私はこのいずれかの現実と向き合うことになる。それもまた、宿命。だからこそ、私は今、私の頭の中で、私の心の中で、マンUとバルサの決勝を思い切り楽しんでいる。この闘いが楽しめるのは、この2つのクラブのどちらもが、敗者となっていない今だけなのだから・・・


日本でJリーグが発足して15年。浦和のような、欧州のクラブに比肩するような「サポーター愛」が感じられるクラブが日本にも生まれてきた。「我が街のクラブ一筋」という文化の到来は、フットボールを愛する者として大いに歓迎する。しかし、日本サッカー不遇の時代から欧州のサッカーに魅せられて来た私には、あるチームの全てを肯定し、その相手の全てを否定するような観戦姿勢は身についていない。対戦する両チームが憧れだったのである。彼らの対戦そのものが、私には魅力的だったのである。


フットボールを愛するようになってから約40年間、私のそんなフットボール観は変わっていない。応援する喜びや、勝利に対する喜びよりも、遥かに勝るもの。それは「素晴らしいフットボール」に出逢うことなのである。だからこそ、時代や選手が変わっても、私はフットボールを愛し続けてくることが出来たのである。


今、5月27日の欧州CL決勝戦は、そんな私の「魂」を根元から揺さぶり続けている。何度も、そして激しく。メッシ、エトー、アンリ、シャビ、イニエスタ・・・、そしてルーニー、テベス、ロナウド、ギグス、パク・・・彼らは決勝戦の前に、どれだけ点を取るのだろうか・・・私の頭の中の、緑色のピッチの上で。


・・・もしかしたら、こんな私の方が「大バカ」なのかも知れない。


魂のフーリガン