UAE戦に見た「いつか見た風景」 | フーリガン通信

UAE戦に見た「いつか見た風景」

ジーコという生き方(後編)を次号で…と言っておきながら、結局“後編”をお届けする前に新潟での日本代表-UAE戦を迎えてしまった。しかも、その内容も語らずにはいられないものだった。


そもそも、親善試合である上に、ACL参加の浦和と大阪の両トップクラブの選手を呼べなかったため、何かの評価を下すことが難しいゲームであった。しかし、相手は日本が苦手とする中東のUAE、別グループながらW杯最終予選に残る日本と同等の力を持っている相手で、カタール、バーレーンという中東国をホームに迎えた時の戦い方の予習になる。私はその観点から観戦した。


興梠の新鮮な動き、19歳香川の代表初得点、岡崎の前線での奮闘など、明るい話題がないわけではなかった。しかし、地方都市での親善試合らしい弛緩した雰囲気の中でのゲームであり、そのまま評価する訳には行かない。彼らはW杯予選のベンチに入ることはできても、ピッチに出てくる時間はないか短いかのいずれかであろう。その意味では日本にとって真の朗報は稲本の活躍のみ。ウズベキスタンやオーストラリアといった欧州型のチームとの対戦で、彼の強さは絶対に必要であろう。彼の参戦は遅すぎたくらいであったが、本番前に何とか間に合った。


しかし、それでも中東対策としての模擬試験の結果は11。涼しいナイトゲーム、しかもパスが通りやすくなるために、芝を短めに刈り、ゲーム前には水をまいたというホームでの引き分けは敗戦に等しい。またも赤点を取ってしまったようなものだ。しかも、これまでと“同じ問題”を今回も解くことができずに。


この“問題”とは攻撃陣と守備陣の両方に課された難問である。まず攻撃陣に対しては、ベタ引きで固められた相手ゴールをどうやって割るかという問題。守備陣に対しては、相手にカウンターを許した際に、スピードと個人技が豊かなFWに広大なスペースを与えた際にどう対処するかという問題である。


攻撃陣に対しては、まず「シュートを打たない」という批判があるが、あれだけ人をかけて守られると、そう簡単にシュートを打てるものでもない。中東のDFは結構背が高いから、ロングボールを放り込んでも小柄な日本人攻撃陣では跳ね返されるだけである。そこでボールを回して相手を揺さぶって、最後はサイドをえぐって早く正確なクロスで中央の選手にピンポイントで合わせるという攻撃が考えられる。サイドを抉られている状態ではDFは横か自分のゴールを向くことになるから、中央で攻める側はフリーになる確率が高い。シュートが防がれても、シュート前につぶされても、相手DF陣は混乱しているから、こぼれ玉を拾える可能性も高くなるし、2の矢のシュートもよく入る。


今回の日本代表は、特に後半その形でチャンスを多く作った。実際に点を取ったのもその形である。引きこもったUAEに対しあれだけチャンスを作れたのだから、攻撃におけるトライは悪くなかったと言え、岡田監督の狙い通りであったはずだ。しかし、相手ゴールを割ったのはその1回きり。あれだけ手間をかけて、チャンスの数を増やしても、やはりシュートが下手すぎるのである。大久保のフカシや、香川のヘッドはもうお粗末過ぎて話にならない。得点のシーンでもその前の興梠のヘッドで普通は決めるものだ。


日本人のシュートの精度が低いことは今始まった問題ではない。構造的な問題を通り越して、もはや民族的、文化的な問題かもしれない。シュートが下手ならば、チャンスの数を増やすことで得点の可能性を高めるという方法論は、ジーコが日本代表監督時代によく口にしていたことであり、現在ほぼ同じ選手達を使う岡田も他の良策はない。シュート力を向上させるには、練習で打って、打って、打ちまくることしかない。フェルナンド・トーレスやルート・ファンニステルローイのような選手が育っているという話は聞かないので、ここは現代表のFW各自に練習を重ねてもらうしかないだろう。どんなゲームでもチャンスがゼロということはないのだから、後は最後の仕上げ(シュート)の質を高めるしかない。それがうまくいかないのが一番悩ましいのだが…


守備陣の問題も深刻である。この日は左右に長友、内田、中央を中沢と寺田(高木と交代)で固めたが、相手がいつも通り引いていたため、守備機会は少なく、左右のDFも相手陣内でプレーすることが多かった。もちろん、全員が上がるわけではなく、ボランチの稲本、長谷部を含め誰かが上がれば誰かがその部分をケアするわけだが、それでも中央の二人がカバーしなければならない範囲は広い。カウンター攻撃というのはそういう状態で急に襲ってくる。かなり前方に張った第1の砦を突破されると、一気に緊急事態に陥るのだ。この日は左サイドからその“槍”が飛んできた。香川の1点で元気な日本は、追加点を狙って畳み掛けるような一方的な攻撃を繰り返していた。その時、カウンターのボールが日本の右サイド、中盤のタッチライン沿いにいたアルハマディに渡る。この時、右DFの内田は日本の波状攻撃の右の翼となっていたため、そこにはボランチの長谷部が絡んだが、交代出場のアルハマディは体格もよい上に交代出場で疲れていなかった。長谷部を強引にはがして、目の前の広大な日本サイドをゴールに向かって一気に駆け上がった。この時点で普通なら中央のDFの一人が中央のコースを切りに行くのだが、右サイドを並走していたUAEで最も危険なイスマイル・マタルに気が行ったからかもしれないが、中沢の寄せは遅れ、アルハマディは難なくゴール正面への侵入に成功。中沢にできたことは、高木とともにシュートに足を出すだけだった。ご存知の通り、シュートは高木の足に当たってコースを変え、楢崎の手を掠めながら日本のゴールに飛び込んだ。スピードと技術があるFWに対して、高さ強さはあってもスピードの無い日本DFの課題が露呈したシーンであった。後半のUAEのシュート数は1本。日本があれだけ人数と手間をかけて取った1点を、日本はたった1人の1回の突破、1つのシュートで失い、勝ち点2を失ったのである。


籠城する相手を攻めあぐね、やっと崩しても放つ矢は的を逸れ、盾に当たる。そうして攻め疲れたころに敵の一騎駆けに突破され、致命傷を喰らう。日本は中東相手にこの悪夢を何度も見せられてきたはずだ。十分に注意もしていたであろう。しかし、我々はいつも同じ悪夢を見ることになる。「本番前に課題が見えた」多くの論評は前向きに語るが、私には「前からあった課題がさらに深刻になった」としか思えない。せめて選手たちは、自分たちの足元を見つめなおし、猛烈に反省してほしい。そして反省の中から、次のゲームでは同じ失敗を繰り返さないように、高い意識で練習に取り組んでほしい。難しい話ではない。それがプロというものである。


頼むぜ、日本。もう我々は中東相手に「いつか見た風景」を見たくない。


魂のフーリガン