【ライオンに追われたウサギ】 | フーリガン通信

【ライオンに追われたウサギ】

3月26日に行われた2010年W杯3次予選の第2戦、日本はアウェーでバーレーンと闘い0-1で敗れた。岡田監督のコメントは 「結果としては残念ですが、アウェーだし、今度ホームで勝てばいい。予選はまだまだ続きますし、これからまだ時間もあります。」 というものであったが、口から出る淡々とした言葉とは裏腹に、その表情からは内心穏やかでないことが十分に感じ取れた。


仕方がない。アウェー、気温の高さ、凸凹のグラウンド、欧州組の不在、国内組主力の怪我、3-5-2システムへの準備不足、新しいボール・・・細かな理由を上げればキリがないが、岡田監督には全ての情報が集約され、それら全ての条件を前提としての采配だったはずであり、その結果の完敗である。最初から最後まで何ひとつやりたい事ができなかったという事実に、内心穏やかでいられるはずはないのである。


今回は戦術的、技術的な評論は多くの専門家諸氏にお任せして、1つだけ気が付いた点に言及したい。それはわが日本代表は「闘ったのか」ということ。言葉を置き換えると「走ったのか」ということである。


選手は「走った」と言うだろう。試合開始時点で33度の気温であり、日本と同じようには行かない環境ではあったが、代表選手として決してサボってはいないと主張するに違いない。しかし、このゲーム、日本代表選手で足が攣った選手はいただろうか?私が見落としていなければ、一人もいなかったはずだ。では、一方のバーレーンの選手はどうだったか?実に多くの選手が足を攣らせてピッチで動けなくなった。0-0の時点から見られた現象であり、彼らの時間稼ぎではない。


足を攣らせる原因には二つある。ひとつはオシムが「ライオンに追われたウサギは肉離れを起こしますか?(肉離れを起こすということは)ただの準備不足です。」というのと同じで、単なる準備不足。要するに日頃の鍛え方が足りないと言うケース。そして、もう1つは「限界を超えて走った」と言うこケースである。私は今回のバーレーン選手達が「限界を超えて走った」のだと考える。もし、彼らが日頃の鍛え方が足りなくて攣ったのであれば、日本はそんな準備不足のチームに敗れたことになる。それは心情的に考えたくない見解であり、バーレーンの展開が速く直線的だったこともあるが、実際に彼らが良く走ったということは紛れもない事実であろう。


この日の日本は、遠藤という潤滑油が後半途中までピッチにいなかったせいもあるが、いつになくパスのつなぎが悪かったように思う。足元から足元、回すタイミングは遅く、パスのスピードそのものも遅く感じた。実際にそうだったのかもしれないが、いつも以上に遅く見えた1つの原因は、私はバーレーンの選手の寄せの速さだったように思える。序盤は「ホームだからプレッシャーをかけに来たな」と思って見ていたが、一向に様子は変わらない。バーレーンが高めの位置から仕掛て来るために、日本は容易に前に行けず、前述のような逃げのパスを回さざるを得なかったのである。日本のシュートが少なかった理由はそこにある。


いわゆる引いて守ってカウンターという中東のサッカーではなく、赤い選手達は序盤から実に速く日本選手に向かってプレスをかけ続けた。そして彼らは終盤にバタバタと足が攣るほど良く走った。限界ギリギリまで走り続けた。今回のバーレーンはライオンのように闘ったのだ。そしてウサギは闘わずに逃げた。走らずに逃げた。そして、ウサギ達が明らかに引き分けを狙い始めた時に、長い後方からのクロスに対し、左サイドを最後まで走ったイスマイル・ハサンがボールに追いつき、エンドラインギリギリから魂のこもったクロスを上げた。そのボールが川口の手をはじいた所を、つめていたフバイルがヘッドで押し込んだ。ハサンのトラップはハンドかも知れないが、私はあの時間帯にあそこまで走りきった彼の勝ちだったと思う。バーレーンは勝利に値した。日本のマスコミが格下、格下と形容した中東の小国は間違いなく日本より良いサッカーを展開した。それは彼らが、魂を込めて走り続けたことで実現したサッカーだった。パスでつなぐサッカーは一見美しく高度に見える。しかし、最後はより走ったチームが勝つのだ。


試合を終えた時、私は思い出した。325日、前日本代表監督イビチャ・オシム氏が病院から“開放”された時の本人からのメッセージの最後の一節である。

「また、皆様には次のようにお願いします。スタジアムに足を運び、選手たちに大いにプレッシャーをかけて下さい。もっと走れ、もっとプレースピードを速くしろと。そして選手達が良いプレーをした時には大きな拍手を与えてくださるように。」

サポーターと日本代表にに向けられたメッセージであるが、皮肉にもそのメッセージを実践したのが、日本代表ではなく対戦相手のバーレーンだった。だから、私は今回バーレーンに拍手を贈ろう。日本人ももう「格下に負けた」などというくだらない感情は捨てて、素直にバーレーンをリスペクトすべきである。そうしないと、次回もこのライオンに追われて、ウサギたちは何もできなくなる。


魂のフーリガン