御縁ありましてこの度我が家の棋盤に並び構え、指し人たちを愉しませてくれることと相成りました一箱の将棋駒。

 

駒師名鑑にも載っていませんし、また7ページくらいまでググッてみたのですがそれでも出てきませんでした。故意なのかそれともうっかりなのか、号と書体銘も天地逆に彫ってありますので、この駒の作者である一佳という彫り師はひょっとして、愛好家の方なのかもしれません。

 

一佳作

 

 

しかしながら、先ず先ず厚手でしっかりと粒の揃った本黄楊の木地に、書体は錦旗でありながら何処となく蜀紅や龍光、将又懐かしき源平駒をも彷彿させる一風変わったその小洒落た彫に、思わず「う~ん、、なかなか良い仕事されてはるなぁ」と唸らずにはいられぬ、そんなひと駒なんです。

 

本黄楊の彫り駒

 

 

まぁ、独特である時点でそれはもう「錦旗と書して錦旗にあらず」な訳ですが、或いはこの一佳師は、晃尚堂さんに卸していた頃のあの仙佳師から一字頂いたとかで継がれた、御弟子さんか何かでしょうか。

勘繰り過ぎか否か、ともすれば晃尚たる独自書体より派生していったものと考えても全くもって合点がいく訳で、いや飽く迄推測の域を脱しませんが。

 

書体は錦旗でありながら独特

 

 

兎に角一枚一枚丹念に彫り込まれ、そして実に見事なまでの漆の乗り。そりゃ欲を言ったり、細かな欠点を挙げ出したりしてしまっては限りがありませんが、何れにしろそれらを加味しても彼の創作は最早一玩具の域を通り越し、ある意味木工に於ける芸術品と呼べるでしょう。

 

丹念な彫りと見事な漆乗り

 

 

生憎仕上げ処理が施されていない状態でしたので、慎重に丁寧に面取りと差し油をさせて頂きました。

高が盤上遊戯と侮る勿れ。巷では木の宝石とさえ呼ばれている黄楊駒。この御縁を末永く、願わくば、ぜひ後世にもと思いに耽る今日この頃なのであります。