手軽に補給できる豊富な栄養源として、またダイエット、健康食品の代表としてお馴染みのバナナ。そんなバナナの木を枯れさせてしまう病気「新パナマ病」の感染が今、世界中に広がっている。日本の最大の輸入元であるフィリピンではここ数年で生産量が激減しており、現地の生産者団体からは「近い将来、世界中のバナナが絶滅してしまう恐れがある」と懸念する声が出ている。

グロス・ミシェル種を壊滅させた「旧パナマ病」

今日、生食用に生産されているバナナは、食べ易いように種がないものに品種改良されているため、株分けによって栽培を行っている。その結果、同品種のものはどれも同じ遺伝子を持つこととなり特定の病原体に感染しやすくなってしまったという。

20世紀半ばまで、バナナといえば「グロス・ミシェル種」という、クリーミーでしっかりした味わいの品種が主流で、世界各地で広く栽培されていた。しかし1960年代までにカビの一種である「フザリウム」という病原体TR1(Tropical Race 1)によってバナナの木が枯れてしまう「パナマ病」の感染が広がり、世界中の農園でグロス・ミシェルは壊滅的な被害を受けほぼ全滅してしまった。



かつてはバナナの代名詞だった「グロス・ミシェル」


そこで登場したのが「パナマ病」に強い「キャベンディッシュ種」という品種だった。グロス・ミシェルより味が落ち耐寒性も低かったが、パナマ病の病原体の侵入を防ぐことができた。現在、日本の食卓に上るバナナの殆どはこのキャベンディッシュである。

キャベンディッシュ種はパナマ病に強いはずだったが…

ところが、2001年にキャベンディッシュにも感染する新しいパナマ病が出現した。
TR4(Tropical Race 4)と呼ばれるフザリウムTR1の異変態は、台湾で初めて確認されるや否や中国、インドネシア、マレーシア、フィリピンなど東南アジア各国へ数珠繋ぎに感染を拡大していき、ここ最近で更にオーストラリア、ヨルダン、モザンビーク、アフリカ、中米諸国にまで次々と深刻な被害を及ぼしている。これまで数千ヘクタールのバナナ農園が、この異変態「新パナマ病」によって壊滅してしまった。



フィリピン・ミンダナオ島のバナナ園


バナナが食卓から消える「新パナマ病」

日本が輸入するバナナの約95%を占めるフィリピンの最大の産地であるミンダナオ島でも、前述の通り「新パナマ病」の被害が急速に広まっていて、現地の生産者団体によると、島にあるバナナの木の5分の1が既に感染し、生産量もこの5年で20%以上減っているという。

フィリピン政府を始め各国で「新パナマ病」に耐性を持つ新たな品種の開発を急いでいるが、フザリウムの胞子が土に何十年と生き続けるため土壌の消毒も必要で、2015年時点で具体的な対処法はまだ見つかっていない。国連食糧農業機関(FAO)ではこのTR4を「世界で最も破壊的なバナナの病気のひとつ」と指摘し、「このまま世界的に感染が拡大した場合、5年から10年以内にキャベンディッシュ種は絶滅するだろう」と警笛を鳴らしている。

バナナが食卓から消える日が来てしまうかもしれない。