与太郎外伝 第一章 9 | ビーバップ城東のテル オフィシャルブログ「与太郎外伝」Powered by Ameba

与太郎外伝 第一章 9

テルだ!元気か?妙に寒い日や、妙に暖かいひがあるから、体調崩さないようにな!
では、続きをどうぞ!

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交番の掲示板に貼り付けてあった手配書には、次のような一文が記されていた。

「長坂忠明 1968年10月21日に発生した新宿騒乱事件において、過激派学生400人を煽動し、機動隊員を鉄パイプや火炎瓶で殺害した犯人です」

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そして、その上には、「この顔にピンときたら、110番!」のお決まり見出しが大きく踊っていた。

「この写真のやつ、明らかにさっきのおじさんだよな?」

「おお、背丈もドンピシャだし、何よりも同じ顔だぜ、これ」

「過激派って、成田空港を占拠している連中だよな?」

「おう、そうだよ。でも、人を殺したなんて話は聞いたことねーよ」

「でも、この人、機動隊員を殺してるんだぜ…」

「てことは、俺達、さっきまで人殺しと話していたのかよ」

「そ・そうだよ」

「俺、怖くなってきたよ」

「とりあえず、家に帰ろう」

光浩らは、無性に背筋が凍るのを感じた。

反抗期に入りたてで、父親や母親に逆らいたい年頃だったが、所詮はまだ子供。

自分達を守ってくれる親の傍らに行って、高ぶる恐怖心を少しでも鎮めて欲しかったのだ。

「今日のことは、みんな忘れような!」

光浩らは、恐怖心から今日の出来事を誰にも口外しないことを約束し、集合場所であった反町公園で解散した。

光浩が自宅に着いた時、幸いにもリビングの電気は点いていなかった。

だが、思慮深い光浩は、幸浩に気付かれていないか、恐る恐る勝手口から自室に戻る。

途中、廊下から幸浩の寝室を覗いた際、幸浩はまだ深い眠りについたままで、胸を撫で下ろしながら、床に就いた。

肉体は相当疲れ果てているにも拘わらず、感情が高ぶって一向に眠れない。

あの俺達に人懐っこく語り掛けてくれたおじさんは、本当に指名手配の殺人犯人なのだろうか…?

光浩は、今一度、自らを「あしたのジョー」であると語ったあのおじさんに会わねばならないと思った。

会って、おじさんの正体は何者なのか、きちんと問いただそう。

おじさんだったら、俺にちゃんと正直に話してくれるだろう。

そう考えると、安堵感が込み上げてきたのか、光浩もまた、深い眠りへと落ちていった。

その翌早朝、光浩は、再び今度は一人で、昨晩訪れた平沼駅の廃墟へと向かった。

今度は、回送列車に轢かされそうになるようなヘタは打たない。

昨夜の九死に一生はどこへやら、簡単に目的地に辿り着いた。

とはいえ、いざ一人っきりで会うとなると、やはり恐い。

緊張した面持ちで、再び平沼駅跡の階段を下っていく。

「おじさ~ん、いますか~?」

恐る恐る光浩が声を掛けるも、返事が来ない。

更に、階段を下り、構内を徘徊してはみたが、人の気配は全くなかった。

もしかして、子供とはいえ、俺達にヤサが見付かって、それで逃げ出したのだろうか。

そんな想いが、ふと光浩の脳裏をよぎった。

以来、光浩は今日に至るまで、「あしたのジョー」を名乗った件の大男と再会を果たしてはいない。

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因みに、この時、手配写真で見た長坂忠明は、共犯とされる人物が逮捕後、精神疾患を患い、公判が停止しているため、公訴時効が成立しておらず、2010年4月の刑事訴訟法の改正により、殺人容疑の時効が撤廃され、現在も指名手配中の身だ。

そして、光浩が、かつて赤軍派学生がよど号をハイジャックした際、自らを矢吹丈に準え、「燃え尽きるまで戦う」という意味合いを込め、その声明文に「我々は『あしたのジョー』である」というメッセージを記していた事実を知ったのは、その十年後、成人した時のことであった。
つづく…

※この物語は、限りなくノンフィクションに近いフィクションである。

著 名和 広