与太郎外伝 第一章 9
テルだ!元気か?妙に寒い日や、妙に暖かいひがあるから、体調崩さないようにな!
そして、その上には、「この顔にピンときたら、110番!」のお決まり見出しが大きく踊っていた。
「この写真のやつ、明らかにさっきのおじさんだよな?」
「おお、背丈もドンピシャだし、何よりも同じ顔だぜ、これ」
「過激派って、成田空港を占拠している連中だよな?」
「おう、そうだよ。でも、人を殺したなんて話は聞いたことねーよ」
「でも、この人、機動隊員を殺してるんだぜ…」
「てことは、俺達、さっきまで人殺しと話していたのかよ」
「そ・そうだよ」
「俺、怖くなってきたよ」
「とりあえず、家に帰ろう」
光浩らは、無性に背筋が凍るのを感じた。
反抗期に入りたてで、父親や母親に逆らいたい年頃だったが、所詮はまだ子供。
自分達を守ってくれる親の傍らに行って、高ぶる恐怖心を少しでも鎮めて欲しかったのだ。
「今日のことは、みんな忘れような!」
光浩らは、恐怖心から今日の出来事を誰にも口外しないことを約束し、集合場所であった反町公園で解散した。
光浩が自宅に着いた時、幸いにもリビングの電気は点いていなかった。
だが、思慮深い光浩は、幸浩に気付かれていないか、恐る恐る勝手口から自室に戻る。
途中、廊下から幸浩の寝室を覗いた際、幸浩はまだ深い眠りについたままで、胸を撫で下ろしながら、床に就いた。
肉体は相当疲れ果てているにも拘わらず、感情が高ぶって一向に眠れない。
あの俺達に人懐っこく語り掛けてくれたおじさんは、本当に指名手配の殺人犯人なのだろうか…?
光浩は、今一度、自らを「あしたのジョー」であると語ったあのおじさんに会わねばならないと思った。
会って、おじさんの正体は何者なのか、きちんと問いただそう。
おじさんだったら、俺にちゃんと正直に話してくれるだろう。
そう考えると、安堵感が込み上げてきたのか、光浩もまた、深い眠りへと落ちていった。
その翌早朝、光浩は、再び今度は一人で、昨晩訪れた平沼駅の廃墟へと向かった。
今度は、回送列車に轢かされそうになるようなヘタは打たない。
昨夜の九死に一生はどこへやら、簡単に目的地に辿り着いた。
とはいえ、いざ一人っきりで会うとなると、やはり恐い。
緊張した面持ちで、再び平沼駅跡の階段を下っていく。
「おじさ~ん、いますか~?」
恐る恐る光浩が声を掛けるも、返事が来ない。
更に、階段を下り、構内を徘徊してはみたが、人の気配は全くなかった。
もしかして、子供とはいえ、俺達にヤサが見付かって、それで逃げ出したのだろうか。
そんな想いが、ふと光浩の脳裏をよぎった。
以来、光浩は今日に至るまで、「あしたのジョー」を名乗った件の大男と再会を果たしてはいない。
因みに、この時、手配写真で見た長坂忠明は、共犯とされる人物が逮捕後、精神疾患を患い、公判が停止しているため、公訴時効が成立しておらず、2010年4月の刑事訴訟法の改正により、殺人容疑の時効が撤廃され、現在も指名手配中の身だ。
そして、光浩が、かつて赤軍派学生がよど号をハイジャックした際、自らを矢吹丈に準え、「燃え尽きるまで戦う」という意味合いを込め、その声明文に「我々は『あしたのジョー』である」というメッセージを記していた事実を知ったのは、その十年後、成人した時のことであった。
では、続きをどうぞ!
・~・~・~・~・~・~・~・~・
交番の掲示板に貼り付けてあった手配書には、次のような一文が記されていた。
「長坂忠明 1968年10月21日に発生した新宿騒乱事件において、過激派学生400人を煽動し、機動隊員を鉄パイプや火炎瓶で殺害した犯人です」
「長坂忠明 1968年10月21日に発生した新宿騒乱事件において、過激派学生400人を煽動し、機動隊員を鉄パイプや火炎瓶で殺害した犯人です」
そして、その上には、「この顔にピンときたら、110番!」のお決まり見出しが大きく踊っていた。
「この写真のやつ、明らかにさっきのおじさんだよな?」
「おお、背丈もドンピシャだし、何よりも同じ顔だぜ、これ」
「過激派って、成田空港を占拠している連中だよな?」
「おう、そうだよ。でも、人を殺したなんて話は聞いたことねーよ」
「でも、この人、機動隊員を殺してるんだぜ…」
「てことは、俺達、さっきまで人殺しと話していたのかよ」
「そ・そうだよ」
「俺、怖くなってきたよ」
「とりあえず、家に帰ろう」
光浩らは、無性に背筋が凍るのを感じた。
反抗期に入りたてで、父親や母親に逆らいたい年頃だったが、所詮はまだ子供。
自分達を守ってくれる親の傍らに行って、高ぶる恐怖心を少しでも鎮めて欲しかったのだ。
「今日のことは、みんな忘れような!」
光浩らは、恐怖心から今日の出来事を誰にも口外しないことを約束し、集合場所であった反町公園で解散した。
光浩が自宅に着いた時、幸いにもリビングの電気は点いていなかった。
だが、思慮深い光浩は、幸浩に気付かれていないか、恐る恐る勝手口から自室に戻る。
途中、廊下から幸浩の寝室を覗いた際、幸浩はまだ深い眠りについたままで、胸を撫で下ろしながら、床に就いた。
肉体は相当疲れ果てているにも拘わらず、感情が高ぶって一向に眠れない。
あの俺達に人懐っこく語り掛けてくれたおじさんは、本当に指名手配の殺人犯人なのだろうか…?
光浩は、今一度、自らを「あしたのジョー」であると語ったあのおじさんに会わねばならないと思った。
会って、おじさんの正体は何者なのか、きちんと問いただそう。
おじさんだったら、俺にちゃんと正直に話してくれるだろう。
そう考えると、安堵感が込み上げてきたのか、光浩もまた、深い眠りへと落ちていった。
その翌早朝、光浩は、再び今度は一人で、昨晩訪れた平沼駅の廃墟へと向かった。
今度は、回送列車に轢かされそうになるようなヘタは打たない。
昨夜の九死に一生はどこへやら、簡単に目的地に辿り着いた。
とはいえ、いざ一人っきりで会うとなると、やはり恐い。
緊張した面持ちで、再び平沼駅跡の階段を下っていく。
「おじさ~ん、いますか~?」
恐る恐る光浩が声を掛けるも、返事が来ない。
更に、階段を下り、構内を徘徊してはみたが、人の気配は全くなかった。
もしかして、子供とはいえ、俺達にヤサが見付かって、それで逃げ出したのだろうか。
そんな想いが、ふと光浩の脳裏をよぎった。
以来、光浩は今日に至るまで、「あしたのジョー」を名乗った件の大男と再会を果たしてはいない。
因みに、この時、手配写真で見た長坂忠明は、共犯とされる人物が逮捕後、精神疾患を患い、公判が停止しているため、公訴時効が成立しておらず、2010年4月の刑事訴訟法の改正により、殺人容疑の時効が撤廃され、現在も指名手配中の身だ。
そして、光浩が、かつて赤軍派学生がよど号をハイジャックした際、自らを矢吹丈に準え、「燃え尽きるまで戦う」という意味合いを込め、その声明文に「我々は『あしたのジョー』である」というメッセージを記していた事実を知ったのは、その十年後、成人した時のことであった。
つづく…
※この物語は、限りなくノンフィクションに近いフィクションである。
著 名和 広