与太郎外伝 序章 6 | ビーバップ城東のテル オフィシャルブログ「与太郎外伝」Powered by Ameba

与太郎外伝 序章 6

テルだ!今日から9月だな!だいぶ暑くなくなって、過ごしやすくなったんじゃないか?
お待たせしました!続きをどうぞ…

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舞台「散りゆく花の輝るとき」は、不完全燃焼を引きずった白井氏の想いをよそに、あまねく拍手と喝采を浴びて、千秋楽を迎えた。

終焉後、一週間ほど経った頃だろうか、白井氏から連絡が入った。

「今、私用でお前んちの近くまで来てるんだけど、ちょっとその辺で呑もうや」

私は、白井氏を本牧の「ゴールデン・カップ」というバーに案内した。

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「ゴールデン・カップ」は、フェンス越しにアメリカがあった60~70年代、後にメジャー・デビューを果たすGS・ザ・ゴールデン・カップスや、キャロル結成前の矢沢永吉率いるヤマトが専属バンドとして活躍していた、今や伝説のバーである。

白井氏と私は、カウンターに腰を下ろしつつ、日本にいながらも、アメリカ文化に染まった不良達が、バイクやスポーツカーを乗り回し、最新の洋楽ヒットに酔いしれながら、夜毎踊り明かしていたという往昔の店内に想いを馳せた。

ドライマティーニを胃に流し込み、ひと息付いた私は、白井氏に語り掛けた。

「どうでした? 初舞台の最終日を終えて…」

屈託のない表情で、それまでジョークや馬鹿話に興じていた白井氏だったが、その言葉を耳にするやいなや、その頬をこわばらせた…。

「うん、今回は確かに、脚本が良かった。演出が良かった。役者が良かったって、各方面からありがたい言葉を頂戴したけど、俺としては、不完全燃焼もいいところでね…」

ほろ酔いでありながらも、白井氏は冷静なスタンスをキープし、ひと言、ひと言、言葉を選ぶかのような重々しい口振りで語り出した。

「言い訳するわけじゃないけど、俺、今回、20数年ぶりというのもあって、長台詞を覚えたり、演出家の指示通り動くことで精一杯だったんだ」

「そうだったんですか…」

「でも、これじゃいけないって気付いたよ。俳優業はお役所仕事じゃないんだ。言われた通りの仕事をただ淡々とこなしているだけじゃ、その芝居にプラスアルファーが生まれないよ」

「プラスアルファー…ですか?」

「例えばさ、稀代の犯罪者のような役を熱演することで、奇麗事ではない、本当の善が見えてきたりするわけじゃない?」

「あっ! それはわかります!」

「だから、これからは、今までの人生経験をアウトプットするだけじゃなく、感性を磨く勉強こそが俺の課題だと思うんだ」

「役者は芸能人でありながら、文化人でもあるって、ある俳優さんが仰っていたけど、この言葉の意味が最近やっとわかってきたんだ。つまり、役者は喜怒哀楽を表現するアーティストだってことなんだな!」

「確かに、監督や演出家の演出プランを、更に適宜にして精緻なセルフプロデュースへと昇華させるわけですものね」

「その通り。つまり、狭義な意味では、役者も作家であり、演出家なんだよ!そんな意識をしっかり持った役者のアンサンブルが、観た人のハートを捉えて離さない最高の舞台を作るんだと思う」

私は、白井氏がここまで自分を客観視し、明確なビジョンを内なる情熱として秘めていることに、頗る嬉しさを感じた。

以降、白井氏は、これまでのワークショップへの参加に加え、様々な舞台を観て歩き、俳優や監督、演出家等が集う飲み会にも積極的に顔を出すなど、感性の蓄積に務めた。

そうした甲斐もあってか、2012年以降は、途切れることなく、仕事が舞い込むようになる。

映画では、「冴え冴えてなほ滑稽な月」(監督/島田角栄)、Vシネマでは、「極道の紋章 第十九章」(監督/片岡修二)、「汚れた紋章」(監督/渋谷正一)、「裏麻雀美神列伝 脱がせの美咲」(監督/越坂康史)、「裏麻雀美神列伝 闇討ちのユメ」(監督/越坂康史)、舞台では、「学校に原発が出来る日」(演出/越坂康史)、「約束」(演出/東二)、その他、短編映画、企業VP、テレビCMと、その出演作は枚挙に暇がない。

現在は、教育演劇の世界にも、足を踏み入れ、演出なども担当するようになった。

そして、2014年9月2日から7日に掛けては、ブッチー武者氏プロデュース、山口弘和氏脚本演出、田原総一朗氏推薦による舞台「生きる」に出演。

往年の青春スター・浜田光夫氏、70年代を代表するセクシー女優・大信田礼子氏といった大御所俳優との共演に加え、今回、白井氏は俳優座という、復帰して初めての檜舞台に立つ。

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「なんといっても、俳優座だからね。こんな伝統と格式のある舞台に立てるなんて、とてつもなく達成感があるし、身が引き締まる想いだよ」

「散りゆく花の輝るとき」で、本格的に役者復帰をして二年余り。

あの時浮かべた戦慄の表情とは別人の顔を、この時白井氏は見せていた。

「やるよ! 俺はこの先も役者としてずっと!」

そう語る白井氏の瞳には、まるで熱い炎が燃えたぎっているように思えた。
つづく…

この物語は、限りなくノンフィクションに近い、フィクションである。

著  名和 広