「んー、じゃあ風呂でも行くか!」




中途半端に盛り上がった気持ちを振り切って、誘った。

だってここはやっぱり温泉だし、大浴場も露天風呂も行っとかなきゃ。





「いいよ」


てっきりカズはめんどくさがって、ゲームして待ってるからじゅんくん行ってきたら?なんて言うとばかり思っていたのに、行くって言うから驚いた。

そのまんま伝えたら、「俺だってさすがに旅行のときくらい動きますよ」って笑った。


「それにせっかくこんないいとこ見つけてくれたんだもん、全部満喫しとかなきゃ」


元取るぞ!なんて気合入れてて、俺も笑った。







風呂は最高に良かった。
乳白色に濁った温泉は肌触りも良くて気持ちいいし、露天風呂からの景色も最高だった。
身体を伸ばして広い風呂に浸かって、バキバキに疲れた身体も心も癒やされる感じ……。



風呂から上がれば夕飯の時間で、
もういたれりつくせり。


風呂上がりのビールも最高だったし、普段少食なカズも結構食ってて、ほんと大満足だった。







「あー、もう最高!」


部屋に戻ってそのままカズはベッドにダイブ。
俺も、その隣に飛び込んだ。

都会のネオンも喧騒からも離れた森の中はどこまでも静かで、
聞こえるのはうっすらとだけど遠くから虫の声がしているくらい。

ゴロンと転がってすぐ、スマホを手にうつ伏せでゲームを始めるカズを横目で見る。

楽しそう。俺には全然わかんないけど。
鼻歌なんか歌っちゃって、時折、うつ伏せたまま膝を曲げてバタバタリズムを取ってる。

ほんと、かわいい。
顔だけ横に向けてカズの横顔を見る。
高い鼻に尖った顎、この輪郭、完璧なんだよな。




「なあ、カズ」

「んー?なにー?」

「露天風呂、行こう?」

「え、さっき行ったじゃん」

「じゃなくてさ、アレ」




目線の先には部屋付き露天風呂の入り口がある。




「一緒に入ろ?」

「んー…」



今度こそ断られるかもな、なんて思ってたけど、
カズはパッとスマホの画面を消してベッドの脇に置いた。




「いいよ、行こ」

「え、いいの?」

「ふふ、自分から誘っておいて驚くとか何なのよ」

「いや…ゲームしてたし、断られるかと思ってたから」

「だからー、元取んなきゃじゃん?」



くふふ、て笑って立ち上がった。









俺にとって相当奮発して予約したこの部屋。
ホント……ほんっと、露天風呂付きにしてよかった!
ていうくらいすっげえいい風呂。

部屋付きの風呂にしてはかなり広めで、二人で入ってもゆったりの檜風呂から眺める外の景色は、
まるで絵画を切り取ったみたい。

夜だから新緑は暗さを増して、鬱蒼としてるんだけど、それがまたいい。
薄くライトアップされた景色が幻想的で……

なんだか夢の中にいるみたいだ。




その夢の中に、俺とカズのふたりきり。


向こうを向いて、風呂の縁に両腕を預けて浸かるカズのうなじが白く光る。



昼間より少し下がった気温に、風呂からたちのぼる湯気が白く霞んで……

なんだか、それが消えてしまいそうに綺麗で。


お湯の中をすーっと近づいて、後ろから抱きしめた。



「カズ、今日はありがとう」

「ふふ、こっちのセリフ。ありがとね」



お互いにお礼を言い合うのが、なんかおかしくてふたりで笑った。



「なんか旅行って、もっといろんなことしなきゃいけないみたいに思ってたけど…こんなふうにゆっくりすんのもいいな」

「うん、おかげで癒やされた〜!マジ疲れ取れる!」

「それはよかった」



温まって赤くなった肌に、うっすら汗をかいてるおでこ。
ほんと、かわいい……。


白いうなじにくちづける。



振り向こうとするカズを抑えて、覗き込むように横から唇を奪った。
だんだん深くなるキス。
カズと俺の吐息が夜の闇に吸い込まれていく。


お湯をまとったカズの肌を、手のひらで撫でる。
普段からしっとりときめ細かい肌だけど、温泉の効果かより一層つるつるしてる。
とろりとしたお湯が俺の手を滑らせる。




どこ触ってんだよ!ばかっ!

て怒られるのを覚悟してんのに、なかなかその言葉が来ない。

それどころか、むしろカズのほうが積極的で……俺から仕掛けたつもりが、どっちが攻めてんのかわかんないくらいで。



唇を離せば、トロンと目を潤ませたカズが、頬を赤くして俺の目をのぞき込んで……




もう、耐えられるわけ、ないでしょ。












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次回から2話、アメンバー限定記事を挟みます。