BL妄想小説です。
ご理解のある方は、よろしければどうぞ。












Guilty pleasure



















その古いアパートは櫻井の家ではない。











くすんだ落書きだらけの薄汚れた外観、
ところどころ穴の空いた外階段。
隣の家どころか上にも下にも生活音が筒抜けの薄い壁。


とある名の知れた大物政治家を父に持つ櫻井にはにつかわしくないようなそのアパートに、二宮は何度か訪れたことがあった。


最近では櫻井は自宅には近づかず、二宮が用があると連絡すれば必ずここに呼び寄せるのだった。











歳も1つ2つしか変わらない櫻井と二宮は、それこそ幼い頃はよくふたりで遊んだものだった。


母は体が弱く櫻井の幼い頃はずっと部屋に臥せっていて、物心ついた頃にはすでに抱かれた記憶すらない。
父は仕事が忙しくほとんど家には帰ってこず、
家政婦や使用人に育てられたようなものだった櫻井の、はじめてできた友だちと言えるもの……それが二宮だった。





それも、ふたりが成長し二宮が櫻井の父親の秘書として政治を学ぶようになってから、その関係は少しづつ変わっていった。



自主性を重んじられて育った、などといえば聞こえがいいが、要するに放ったらかされて育ったために、その代わりともいうように潤沢に与えられた小遣いを惜しみなく使っては毎晩遊び歩く櫻井は度々危険な目に合うことも少なくはなく、
そのたびに尻拭いをしてきたのも二宮だった。



当初はもちろんいずれは跡継ぎに……と櫻井の父も考えていたはずが、それに反発し面倒を起こす櫻井に匙を投げ、
結果早くからその才能を櫻井の父に認められていた二宮を、後継者として秘書に置き、信頼し……



そんな境遇だったからこそ余計に、親友だったはずのふたりの関係が歪になっていったのだろう。
少なくとも、櫻井からは。












ギィギィと軋む音を立てながら二宮は外階段を上がって、
櫻井が隠れ家にしている部屋に向かう。


外階段しか無いその古い3階建てのアパートの203号室が櫻井の隠れ家だった。
アパートと言ってもすでにその入居者はごくわずかで、
1階部分に独り暮らしの老人が数人、3階に浪人生がひとり、フリーターがひとり、、
各階5室、合計15室の半分ほどしか埋まっていない。









鉄の重い扉の前に立つと、二宮はドアノブを回す。
鍵は開いていた。


狭い玄関に脱ぎ捨てられるように散らばった靴、住人の数より明らかに多いそれを足先で横に蹴る。
入ってすぐに3畳ほどの狭いキッチン。ユニットバスの先のドアの向こうに1部屋あるだけの狭いアパート。
閉まりきっていないそのドアの隙間から、啜り泣くような女の喘 ぎ声がする。





二宮は咥えていたタバコをそのままキッチンのシンクにねじ消し、声もかけずにわざと大きな音をさせてドアを開けた。