(side N)









「ニーノ」



うちに来るなり翔ちゃんがすっごい笑顔で俺を見た。
こういう笑顔のときはなんか考えちゃってるやつだ。
なんか背筋がゾッとする。俺、結構勘のいい方だからね。




「これ。借りてきちゃったぜウェーイ!」





って手にした紙袋から出したのは、こないだ番組で俺が体験したネコ耳の……オモチャ。


借りてきちゃったぜウェーイ、じゃねーのよ。なんでも借りてきちゃうねあなたは。
前に友だちとのハロウィンパーティにスケスケ衣装借りてってダダ滑りしたとかいってたし、こないだはインスタにTABOOの衣装着てたし、




「だってさー、買おうと思ったらもう売ってませんっていうんだもん」




いやだから買おうと思わなくていいのよ。
やだよ俺それ仕事だからつけたけどさ、別に好きでつけてたわけじゃないし。



「超可愛かったんだよなーネコ耳♪」



っていそいそと準備してるし!語尾に音符つけてるし!



「だからさっ」



て、その先を言われる前に俺はイヤフォンをつけてゲームに集中した。
キコエマセーンキコエテマセーン




て、そんな俺の前に翔ちゃんフレームイン。

期待で目を輝かせて、手にはネコミミ……。


はいはい、わかりましたよ付ければいいんでしょ。
そんで早く納得して終わってよ…その好奇心。

結局翔ちゃんのお願いってぜんぶ聞いちゃうのよ。優しいニノちゃんはさ。





はあーー、てわかりやすくためいきついて、俺はイヤフォンを外した。






















(side S)






わかりやすくため息ついたニノは、黙ってスマホを置いてイヤフォンを外した。

わかりやすいなー、ニノは。

こんなの俺の意思じゃないからね、翔ちゃんにやらされてんだからね、て建前で、結局は期待してんだろ?

ほら、耳も頬も赤くして、かわいいなぁ。





いいよ、それなら俺も空気を読めない強引翔ちゃんを演じてやるから。

ニノが素直になれるように。




ネコミミを手渡せば、慣れた手つきで装着した。





やっべーー!!
かーわいい!!!!




いかにも不本意ですよって顔でムッとしたニノは、俺から目を逸らしてて。




「いいじゃん、似合ってる」

そう言って近づけば、ばーか、なんていってぷいっとそっぽを向いた。




ほんとかわいい。こいつ。



「ネコはどうしたら喜ぶのかな?やっぱりネコジャラシかな?」


なんて言って、そのへんに落ちてたタオルをプラプラしてみた。
端を持って、ニノの目の前で揺らしてみる。



じとーーー、て目で見られて反応せず。
そりゃそうか。





「じゃあ、オヤツかな?」

なんて言いながら、テーブルの上にあったビスケットを手に取る。
もちろん人間用。
こないだ相葉くんが遊びにきた時に置いてったんだってさ。
俺のいない間に……、ってまあそれは今はいい。





「お手!…はイヌか。ほーら、ネコちゃん、オヤツですよー」

摘んだビスケットを口元に持っていけば、上目遣いに俺を睨みながら軽く口を開けた。
口に入れてやって、ついでに唇に指で触れる。あくまでも、さりげなく。
ビスケットをあげたらつい、触っちゃったんだよって感じで。




「ネコはこんなの食べないんじゃないの」


言うニノの頭の上の猫耳がピクピクって動いた。

ふふ。ちょっとびっくりしたな?

センサーが、ネコミミをつけてる人の感情を読みとって、まるで本物のネコみたいに耳が反応するらしい。





「ネコちゃん、かわいいねー」

本物のネコに語りかけるときみたいに、まさに猫なで声で呼びかけて、
よしよしよし、て頭を撫でる。それから、顎の下をこしょこしょ。

くすぐったいよ!て肩をすくめてニノが笑う。


その手を頬に移動して、指先で耳の後ろを……あ、これは人間の耳のほうね?そこをこしょこしょ。


左の耳たぶにはセンサーがついてるから、右のを俺の左手で触る。

右の耳たぶをくにくにと弄ると、頭の上のネコミミの方がピン!と立った。
緊張してる。


ふふ。
ネコミミは正直だな。
ピン、て立った耳がくるくると動いて何かを確認しようとしてる。
なにを?

これから、どうなるか…何が起こるのか?



わかってんだろ。

そんな思いでニノの鼻先にキスをした。













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続きは1時間後に。