「待ってて、って言っただろ?姫が待ってるのに…行くわけないじゃん」

「ふふ、なにそれ」

「それよりさ…なんかいい匂いするー。なに、もしかしてメシ、作ってくれた?」

「べつに…」




気恥ずかしい気がしてなんとなく、はぐらかしてみたけど、
翔ちゃんはギュッとしたまま、くんくんと俺をにおい始めた。





「なんか、甘い匂い…」

「ちょ、やめてよ、」

「んー…なんだろな…。バターと…トマト?違うか、ケチャップ?」

「もう、やめろって、くすぐったい!」





頭から、ほっぺ、首筋、胸元、
嗅ぎながら降りていく翔ちゃんの頭。
ゆるい部屋着の伸びきった襟元に鼻を突っ込んで…
もう、これ以上はやばい、と思ったから、白状した。





「オムライス!オムライス、作ろうと思って!」

「えっ!オムライス?!」





ぱっ、と顔を上げた翔ちゃんの目がキラキラしてて、すっごい笑顔。




「卵で巻くとこは、あとで、って思って、チキンライスだけ作っといたけど。でも、もうこんな時間だし…明日にする?」

「食う!食うよー!あったりまえだろ?!」




ニノのオムライス、久しぶりー!って歌い出しそうに言うから、思わず吹き出した。

笑う俺を、首を傾げて見る、翔ちゃん。こういうとこが、たまんなく可愛い。






オムライスは、うまく出来た。
前に仕事で、マスターしたからね。オムライスは、得意。
あの頃は練習で、何回も何回も卵を焼いた。そのたびに翔ちゃんは、うまいうまいって食ってくれたっけ。




相変わらずひとくちが大きい翔ちゃんが、ほっぺたを膨らましてモグモグするのを、向かいで眺める。
ひとさじの量が多いのよ。いい加減自分の口の容量理解しないのかね。この人は。