(side M)






「ただいまー…」



家に帰ってすぐ、誰もいない部屋に向かって声に出して言う。
昔からの俺のルーティン。
声に出さないとなんとなく気持ち悪い気がして。








春から独り暮らしを始めた。

それまでの1年間は実家から大学に通っていたけれど、ビミョーな距離と、独り暮らしへの憧れもあって2年目から部屋を借りた。


どちらかというと昔から料理はする方だったし、家事もそんなに苦手ではないし…まあ、課題やバイトで忙しいときなんかは弁当だったり外食に頼ったりもするけど、それなりにやれているつもり。



今日は一段と冷えて…本格的な冬到来を感じて、
クローゼットからクリーニングの袋に入ったまま下げてあったダウンを取り出して、壁のフックに掛けた。



そろそろ、ストーブも出さなきゃかな…。
気休め程度の小さなストーブだから、すごく冷えた夜には窓ガラスも曇らないくらいのパワーしかないけど。


簡単に夕飯を摂って熱い風呂に入って、ポカポカしたままベッドに入る。


毛布に包まりながら、今日一日を思う。








高校から大学に進んで、格段に世界が広がった。
得る知識ももちろんだし、物理的に行動範囲も広がった。


それと、出会う人たち。



今まで俺の周りにはいなかったタイプの人間も多くて、新鮮で面白い。


この前会った先輩なんか、海釣りにハマりすぎて25時間も海の上で過ごしたって聞いた。


そんな奴周りにいなかったから、びっくりして、冗談かと思って笑ったら、本気だったっていう。


ふふふ。



思わず思い出し笑いをして、毛布を鼻まであげる。




そうしたら、連鎖的にあいつのことを思い出した。