どこにぶつけていいかわかんないイライラを抱えたまましばらくぶくぶくぶくぶくしてから俺も風呂から上がった。





濡れた髪を乾かすのもめんどくさくて、頭からタオルをかぶったままでキッチンに行く。
冷蔵庫からビールを取り出して、プシュッてプルタブを開けた。


ぐっと一気に半分ほど飲み干して、シンクの横にガンッと置く。
ふう、とため息をつくと同時に、リビングのソファーに座って肩にタオルを掛けた智と目があった。



「あー!ビール飲んじゃったの?!待ってたのに!」


知らないよ!


無視して残りをごくごくと飲み干して、缶をグシャッと潰す。



「なんだよ、もー。」

言いながら、冷蔵庫からビールを2本取り出して1本を俺に渡した。


「カンパイしよ、乾杯」


強引にゴツンて缶をぶつけてきて、ぐびぐびっと立ったまま飲んだ。


上を向いて缶を傾けて…喉仏が上下して。
缶を掴むきれいな指。
曲げた腕に浮かぶ筋。


「なに、飲まねーの?」


何となく見惚れてぼーっとしてたのか、そう言われて慌てて俺も缶を開ける。


ゴクゴクと飲んで缶を口から離せば、その智の、缶を持つ手と反対の手が伸びて来て、指で俺の口元に触れた。


「泡。ついてるし。」


笑いながら人差し指ですっと撫でるように拭って…
ぺろ、ってその指を舐める。
その顔が…、クソッ、悔しいけど、なんつーか…。



「真っ赤じゃん」


くすくす笑いながら耳たぶを急に触るから、「ひゃっ」なんて変な声が出て。


「耳も真っ赤」



クッソ…なんか、腹立つ。
腹立つけど……。



付き合い始めてもうすぐ10年、出会ってからなら軽く20年を超える俺たちは、正直言ってもうそんなにドキドキするような関係でもなく。
よく言えば空気みたいな。
マンネリ、とまではいかないとは思ってるけど…まあ、新鮮味は無いよね。
一緒にいるのが当たり前で、くっついてるのが当たり前で、
くっついてなくたってくっついてるみたいな…うまく言えないけど、まあそんな感じ。

だから…なんでこんなに今、ドキドキしてんのか、わかんない。
わかんないけど…



「なあ、にの」


気がつけば、目の前に智がいて。
びっくりして下がったら、背中が冷蔵庫にドンってぶつかった。