(side S)
「ねえねえ、翔くん、」
「んあー?何?」
「キス、したことある?」
キラッキラした目で俺を見て、そんなこと急に言い出した、潤を見て俺は文字通り固まった。
「はぁ?なんだよ突然」
「だからぁー、キ、ス」
まるで、シーって言うみたいに唇に人差し指を当てて、ニヤリと笑う。
俺と潤は同じマンションに住む、いわゆる幼馴染で。
二個下の潤は小さい頃からいつも俺のあとをついて歩いてた。
『ねえねえしょおくん、どこいくの?』
『なにすんの、ぼくにもおしえて!』
『しょおくん、しょおくん』
って……。
小学生くらいまでの頃は全然問題なかったし、俺も気にしてなかったんだけど。
中学生になったらさ……なんだか、潤がくっついてくるのがウザく感じて。
友だちも、『お前いつもおまけ付きだな』とかって笑うし。
やっぱり、中学生くらいって大人びたい年頃じゃん?
初めて、「付いてくんじゃねーよ」って言った時の潤の顔を、今でも忘れられない。
ショックです、って色を顔に貼り付けて、その場に立ち尽くしてた。
『ごめんね……』
って言って、走り去る目の端に涙が浮かんでたのが見えて、追いかけたくなったけど、出来なくて。
その日は友だちと遊んでてもモヤモヤとして全然楽しめなかった。
そういうことがあって。
まあ、いろいろあった俺のちょっとした反抗期を無事に乗り越えて、
俺たちはまた、一緒にいる。