(side O)
「いててて…しょーくんの馬鹿力…すげえな」
さっき打ち付けた肩をこすりながら店の外に出る。
夏の暑さがだんだんと和らぎ、今晩は随分涼しくなった風が、通り抜けるのを感じる。
ここしばらく、おれのいとこはなかなかこっちに帰ってこなかった。
たまに顔を見に行くしょーくんちのおばちゃんも、「なんか忙しいみたいで連絡もないのよ」なんて笑ってた。
それよりも…日増しに元気がなくなる相葉ちゃんが、気になって。
たまに、ドアを開ける前にガラスから中を覗いてみたりする。
カウンターのなかの相葉ちゃんは、疲れた顔でため息ついてたりして。
おれがドアを開けると、すぐいつものひまわりみたいな笑顔になって出迎えてくれるんだけどさ。
今日も、そうだった。
いつもの笑顔の相葉ちゃんが、ふと見せる淋しげな顔が気になってさ…。
おれらしくもなく余計なお世話、しちゃった。
あんなこと、言うつもり無かった。
ずっと、このまま…言うつもり無かったのにな。
無理に笑う相葉ちゃんをみてたら、思わず。
つい、口から出ちゃったんだ。
ドアを開けて必死な形相で飛び込んできたしょーくんを思い出す。
「俺の雅紀、か…」
あのタイミングで来てくれてほんとに良かった。
取り返しのつかないことになるとこだった。
ふう、と息を吐いて…ぱんぱん、と両手で両頬を叩く。
大丈夫、冗談だってことで…伝わっただろ。
きっと今頃は、100パーの笑顔でいるはずだから。
早く帰ろう。帰って、作品の続き、しよう。
秋風が連れてくる金木犀の香りをかぎながら、家路を急いだ。
(おしまい)
_________
コメントで、「おーちゃんの気持ちはどうだったんだろう」と言っていただいたので、
その日のおーちゃんの小話を書き下ろしてみました。
いつもコメントありがとうございます!