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桜並木を歩く。

ニノは、先についているって、さっきメールが来てた。

昼の営業を終えて、夜は店をお休みするから、張り紙を出して、片付けに、明日の用意も少し…なんて、やっていたら、ちょっと遅くなっちゃったんだ。






桜の花びらが、あの日のようにはらはらと舞い落ちるなか、オレは、歩く速度を早めた。





もう、オレのことなんか、忘れてるかな?
結婚して、子どもが居て…。幸せに暮らしているのかも。

ハガキを見ながらそう呟いたオレに、ニノは、



「もしかしたら、ズルズルにハゲ散らかして、腹の出たオヤジになってるかもよ。」


って、くふふって、笑った。

行こうか、行くまいか悩んでいたオレに、そうなってたら一緒に思いっきり笑ってやろうよ、って背中を押してくれた。








あんまり早足で歩いて、息が切れてきた。
わき腹も痛い。運動不足だな…。
ジョギング、再開するべきかな…。
最近サボり気味の運動のことを思い出しながらも、歩く。早く、はやく。



桜並木の先に人だかりが見える。
懐かしい顔。
その中に、ニノの顔が見えた。

手を挙げて、ニノ!って叫ぼうとした、その時。
ニノに近づく、人影。
あれは…あの背中は…。






桜吹雪が、ふわっと舞い上がった。
薄紅色のカーテンの向こうに、ああ、見間違えるわけがないよ。
あの頃より、ガッシリとした体つきになってはいるけれど。


涙で、前が見えないけど…
オレには、見えるよ。






「翔ちゃん……。」


あなたが振り向く。
ああ……。


オレは、精一杯微笑んだ。












end