翌日、お別れ式当日は、とってもよく晴れていた。
単線の小さな駅には、早咲きの桜の花が咲き誇っている。
キレイだな…。
オレ、この桜、きっと一生忘れないよ。



オレ達の乗る小さな列車の屋根も、桜の花びらで染まっている。
時々、強く吹く風が、屋根の花びらを吹き飛ばして、まるでピンク色の雨みたい。


しばらく、ぼーっとその風景を見ていた。
次にこの風景を見られるのは、いつになるのかな…。






「そろそろ、時間よ。」

かーちゃんに言われて、オレも列車に乗り込む。
その時。




「雅紀ーーーーーっっっ!!」




声が、聞こえた。
気のせい?ううん、そんなはずない。
だって、こんなにはっきり聞こえる。
聞き間違うはずのない声。
でも、まさか。今日は、お別れ式だよ?
慌てて、振り返る。
目の前でドアが閉まる。


ドアの向こう、改札のあたり。
愛しい人の姿が、見えた。



「雅紀ーーーーー!!!」


実際には、声は聞こえてない。だけど、オレには聞こえたんだ。
オレを呼ぶ声が。
あの、綺麗な大きな瞳から、ぽろぽろと涙を流しながら、オレを呼ぶ、声が。


「翔ちゃん!!」


発車を告げる、車掌さんの笛の音が響く。
列車は、ゆっくりと走り出した。


「翔ちゃん、翔ちゃん…!!」


窓から見える駅が、翔ちゃんの姿が、どんどん遠ざかっていく。


「しょ……ちゃん……!!」


オレは、愛しい人の名前を呼び続けながら、ドアにおでこを当てて、すがりつくように、ただただ、涙を流していた。







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