少しづつ、少しづつ、弾けるようになってきた、ピアノ。
それと一緒に、オレと翔ちゃんも、打ち解けてきた。
そう!翔ちゃん、って呼べるようになったの!
翔ちゃんも、雅紀、って呼んでくれて、なんだかくすぐったいような、照れくさいような。
翔ちゃんはやっぱり、オレが思ってた通りの人だった。
打ち解けて、仲良くなるにつれて、どんどんオレの気持ちも高まってくる。




そんな時、翔ちゃんに聞かれたんだ。
「どうしてピアノを?
どうして“別れの曲”なの?」って。

オレは、半分だけホントのことを言った。

お別れ式で、ピアノを演奏したいんだ、って。

それと、半分だけウソをついた。

ピアノ演奏したら、かっこよくてモテるでしょ?って。



オレは、たくさんの人にモテたいわけじゃない。
たったひとりの…目の前にいる、たったひとりのために、弾きたいんだ。
あなたの笑顔が見たくて。
喜んでもらいたくて。
だから、弾きたいんだ。
あなたへの、最初で最後のプレゼントとして。






そんなある日、かーちゃんが言った。
ばあちゃんの具合、結構悪いんだって…。
少しでも早く、あっちに行ってやりたいって。
それで…卒業式前に旅立たなきゃいけないって、わかったって。
ばあちゃんとこ、ホントに、遠いんだ。
オレ、小さい頃からばあちゃんにすごく世話になってたし、行かない、なんて言えなかった。
ばあちゃんのこと、大好きなんだもん。
それで、旅立つ日は、お別れ式の日になった。
仕方なかったんだ。



そのことは、ニノにだけ、伝えた。
翔ちゃんには…言えなかった。
何回か、言おうと思ったんだけど…でも、どうしても、言えなかったんだ。