「どうしたの?」
「あ…いや……
あ、そう!久しぶりに聞いたらさ、すげえ上手くなってんじゃん、ピアノ!」
「でしょ!?オレ、翔ちゃんが来てない間もすっごい練習してたからね!」
えっへん!って文字が見えそうなくらい威張ってくるのも、かわいい…
いやいやいや、かわいいって!
男にかわいいって!
「ありがとね、翔ちゃん。
これも、練習に付き合ってくれたおかげだよ。
オレ一人だったらもしかしたら、途中で投げ出してたかも知んない…。ホント、ありがと。」
はにかんで笑う姿も綺麗だ……
っていやいやいやいやいや!
綺麗とか!たしかにコイツは綺麗だけれども!
ってか綺麗って!
頭の中も心の中もぐるんぐるん、対応不可、理解不能、
自宅に帰りついた時にはぐったり疲れ果ててしまっていた…。
気がつけば知らぬ間に少し、眠っていたらしい。
最近寝不足だったもんな…。
夕飯のためにリビングへと降りる。
本当は、食欲なんて無いんだけど…。
「よっ、久しぶり!しょーくん」
「わっ!なんだよ、来てたのかよ、智くん!」
夕飯のコロッケを頬張りながら、ほっぺにご飯粒をくっつけてふにゃっと笑うのは、一つ年上の従兄弟、大野智だ。
今年から美大に入って一人暮らしを始めた智くんは、たまには家庭料理が食べたいと、実家より近い我が家に時々遊びにやってくる。
いつも自然体で自由な雰囲気のこの従兄弟を、俺は密かに尊敬している。
本人には、ぜってー言わないけど。
「んー?なんだよその顔。しょーくん、何かあったな?どれ、お兄さんに話してみんしゃい。」
「なんだよそのニヤニヤ顔…。」
「んふふ。ムッとすんなって。ま、後で話聞いてやるよ。
おばさん、おかわりーっ」
智くんは母さんと楽しそうに世間話を始めた。
なんだよ…昔から、無駄に勘がいいんだよな。
ボーッとしているように見えて、俺の隠し事なんか長く持った事は無かった。