放課後、例の教室へと向かう。
声をかけるわけでもないのに、何故か、気になって仕方なかった。
きっと、少しづつではあるけれど、上達していっているピアノを聞くのが楽しくなってきたんだ。


ここは、いつもつまづく場所…
おっ!はじめてスムーズにひけたじゃん!
もう少し、もう少し…
ピアノが、最後の一音を奏でた時、俺はつい、嬉しさのあまり…
立ち上がって拍手をしていたんだ。


その時の相葉の顔…!
きっと俺も、アイツに負けず劣らずのびっくり顔だったに違いない。



「さ、さくら、い…?」

「あ、ご、ごめん…。
や、あの、ちょっと通りがかってさ、うん、偶然…そう、偶然!」

「聞いてたの…?」

「いや、ピアノが聞こえたから…うん、相葉、お前ピアノなんかひけんだな、すげーじゃん、すげー上手くなってさ、やっぱり毎日やってたら伸びるよな、うん」

「毎日…」

「!」

墓穴をほったことに気づいた俺が、顔を熱くしていると、
相葉も、顔を真っ赤にしながらも、いつものあの笑顔で笑った。











それから、放課後になると自然に、教室に集まって一緒にピアノの練習をするようになった。
と、いっても、相葉が練習するのを横で聞いているだけなんだけどさ。
相葉とはやけに気があった。
チャラそうな見た目とは違って、アイツは真面目で一所懸命で、イメージ通りによく笑ういい奴だった。
相葉、櫻井、と呼んでいた呼び方も、いつの間にか、雅紀、翔ちゃん、にかわっていた。