ポーンという軽い音とともにドアが開いて、自然と手は離れた。

なんとなく手が寂しくて、握ったり開いたりしてみる。


「なにしてんの。行きますよ」

って笑いながら振り向くカズの肩越しに、見知った姿が見えた。

「あ、山口くん」

途端、カズの表情が少し、こわばった。


仕事帰りらしい山口くんは、ロケ車から降りてこちらに向かってくるところだった。
真っ黒に日焼けして、汗を拭いながら白い歯を見せて、こちらに手を上げて笑う。


「お疲れ様です」

「お疲れー。なに、お前ら今終わり?」

「そうなんですよー」


俺の方を振り向いたまま、山口くんに背を向けていたカズが、ふうっ、と一度息をついて、俺の隣に並んだ。
そして、俺の手をぎゅっと握った。


俺達の前まで来た山口くんは、そのつないだ手を見て、少し驚いた顔をして、
それから、優しく微笑んだ。


「そうか……。そうなんだな」

「うん」


山口くんは、その大きな手でカズの頭をぐしゃぐしゃっと撫でて、良かったな、って笑って。
カズの琥珀色はなんだか、泣きそうで。


俺は、ただその様子を見ていた。


繋いだ手をもっと強く、強く握り締めて。


そして、俺の肩をポンポンって叩いて、
山口くんは去っていった。



俺が、山口くんに直接会ったのは、それが最後だった。

かっこいい、広い背中だった。









「さ、帰ろ」

カズが俺を見て笑う。
俺も笑顔を返して、つないだ手をそのままに、車に向かった。