(side S)



移動車の中、取材中のニュースの資料を広げる。
先日ロケに行った内容を自分なりにまとめておいたものを、落ちがないかさらに確認する。
来る途中にコンビニに寄ってもらって買ったラテにストローを刺して、資料に目を通しながらラテを飲みながらサンドイッチの封を開ける。
たっぷりとしたタマゴサンドの具がこぼれないように、目線は資料のままでかい口でかぶりつく。



と、運転席からマネージャーのくすくすと笑う声がした。


「櫻井さん、ご機嫌ですね?」

「ん?なにが?」

「いや、ずっと鼻歌歌ってて。なにかいい事あったんですか?」

「え、マジ?」


全然、気づかなかった……。
何となく、気恥ずかしい気もして、手のひらを口に当てて、窓の外を見た。
流れていく景色まで華やいでいるような気分になって、俺も大概だな、って思う。




カズと、文字通り身も心も結ばれて、なんだか、心が満たされるというか、
余裕が生まれてきたと言うか。
なんで早くこうしなかったんだろう、って思ったりもする。


とくに、何が変わったという訳でもないんだけど、気分的に、違うような気がする。
やっぱりさ……。大事だよ。
想いを伝え合うってこと。


照れ屋なコイビトはなかなか言葉にしてくれないから。
態度で示してくれるのは、凄く嬉しい。

そんなことを考えながらニヤニヤしていたら、もうすぐ到着しまーすってマネージャーに言われて、俺は慌てて残りのサンドイッチにかぶりついた。








「じゃ、お疲れー」


レギュラーの仕事を終えて、挨拶して足早に楽屋を出る。

少し早足で廊下を進んで、先に楽屋を出た背中に追いついた。


「カズ」


ぽん、と肩に手を置くと、振り返る顔に、胸の奥がキュッと苦しくなる。
毎日見慣れているはずなのに、な。


ちょっと頬を赤らめて、微笑む琥珀色の瞳。


出会った頃と変わらない姿……。


いや、変わらない、って言ったら語弊があるか。
それなりに大人になって……ひと仕事終えたあとの、少し伸びた髭の跡や、目尻の皺なんかに年相応を感じて、そんなことすら愛しいと思う。
もう俺、相当やられてんな……って、小さく笑った。


そんな俺を不思議そうに見上げるカズに微笑みかけて、エレベーターに乗り込んだ。







レギュラーの収録のあと、お互い時間が合えばできるだけどちらかの家に行くことにしていた。
少しでも二人の時間が欲しかったから。
お互い、忙しい毎日で、なかなか時間が合わないから……。

ほんの少しの努力が、恋愛には必要だから。

でも、無理はしないように。

それが、言葉に出さずとも自然に、俺たちの約束になった。


楽屋を別々にでるのは、なんとなくのメンバーへの遠慮。
いや……ていうか、照れ隠し、かな。


俺はもう少し、楽屋でくらいイチャイチャしてもいいじゃないかと思うけど、カズが恥ずかしがるから、まあ、そこん所は譲ってやってもいいかな、って。


だから……


二人並んでエレベーターに乗って、
壁にもたれるふりをして、背中で隠してカズの手をとって、
エレベーターの監視カメラに映らない角度で、ぎゅっと手を繋いだ。


時間にしたらほんの数分。

別に見られたって、やっぱり嵐さんは仲がいいですねって言われるくらいの触れ合い。
恥ずかしがって手を離すかと思ったカズの指が俺の指と絡んで、地下駐車場でドアが開くまでの短い間、強く握りしめたままだった。