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どすん、と何か、あったかくて重いものがからだに乗った衝撃で目が覚めた。
「いって……」
寝ぼけまなこをうっすらと開けると、目の前に翔さんの寝顔があって。
心臓が、ドキンと跳ねる。
衝撃の理由は、寝返りを打った翔さんの腕だった。
そうだ、俺、ゆうべ……。
ゆうべは、初めて過ごした二人の夜で……
お互い、同性相手にそういうことするのは、初めてで。
なんとなく、うっすらとした情報はあった、くらいの俺に対して、翔さんは……
ものすごく研究しといてくれた、みたいで。
とても優しく、かなり積極的に、進めてくれた。
それは……痛みや苦しささえも超えるもので……
そういうことよりも、もっと、なんというか……しあわせでたまらなくて。
行為そのものが、いいとか悪いとか、そういう事じゃなくて。
とにかく、しあわせだった。
力尽きてくたっとした俺を、優しく優しく撫でてくれていた記憶が、はっきりと戻ってくる。
ほかにも……いろんなことを思い出してきて……
は、は、恥ずかしい……。
ひとり、赤くなって布団に潜り込む。
乗っかってる腕をすり抜けるようにしてもぞもぞと、頭まで潜り込んだら、ううん……て声と、身じろぎする身体。
俺を追いかけるように腕が伸びてきて、そのままぎゅうっと抱き込まれた。
「カズ、おはよ……」
寝起きの掠れた声が、超絶色っぽい。
「おはよ……」
布団の中から声だけで答える。
「どした?カズ、顔見せてよ」
「やだ……」
どんな顔していいかわかんないし。
無理、無理無理。
ぎゅっと布団の端っこを掴んで抵抗してみた。
「カーズ、出てきてよ」
聞こえる声は、優しくて、甘い……。
無理!絶対無理!
指先に力を入れて、ぎゅうっと布団を握る。
しばらく、はがそうとしてた翔さんだけど、ふうっ、とため息をついた。
そっと離れる腕。
「わかったよ……」
寂しそうな声が聞こえて、立ち上がって、ドアを開ける音……
え?行っちゃうの?
やだ!
慌てて布団から飛び起きたら、ドアを開けてノブを掴んだまま、こっちを見る翔さんとばっちり目が合った。
目尻がニヤニヤと下がっている。
と、すごい速さで飛んできて、もう一度潜ろうとした俺を抱きしめた。
「ふふ、捕まえた」
「もう、何だよ!」
なんか、悔しい。
くそっ。
「カーズ。やっと、顔が見られた」
甘い声で囁いて、チュッ、とおでこにキス。
もう、この甘いの、いたたまれない……。
俺、虫歯になりそう。
翔さんて、恋人相手にはこんなになっちゃうの?
知らなかった。
困る……。
そのあと、もぞもぞと起き出して交代でシャワーして。
翔さんは一緒に入るとか行ってきたけど丁重にお断りして。
朝メシの準備とか何にもないから、とりあえずコーヒー入れて、飲んで。
昼から仕事だっていう翔さんが、支度をするのを、ソファーに横になりながら見てた。
翔さんのマネージャーに、うちに迎えに来てもらうように連絡する。
「なあ、ほんとに大丈夫?身体」
ソファーの背に無造作に掛かってたブランケットを、俺にかけ直しながら、翔さんは心配そうに囁いた。
「ダメかも知んない」
「え?え?マジ?どっか痛い??」
「痛いもん。腰も、ケツも」
「ケ……」
青くなったり赤くなったりする翔さんが、おっかしくて。
くふふ、って笑ってたら、
もおーー!って言いながらドサッと俺の上に覆いかぶさってきた。
「重い重い!重いよ!」
「カズぅー、うー、仕事、行きたくねぇーー!!」
「何言ってんのよ、ふふふ」
俺の上に重なって、ゴロンゴロンとする翔さんを、ぽんぽんと宥める。
「また帰ってくりゃいいじゃん。ココに」
「えっ、いいの??」
「いいよ、別に」
「よっし!そうとなったら巻きで帰ってくる!」
ゲンキンな言い方に、笑いが漏れて、その唇にチュッ、とキスされた。
クスクス笑いながら顔中にキスされる。
キスの合間に、見つめあって。
だんだんそのキスが、深くなって……。
ピリピリビリ、と翔さんのスマホが鳴った。
「あー、残念、タイムアップ」
名残惜しそうに離れてスマホに応答して、
「ちゃんと寝てろよ?無理しないで、また連絡するから!わかった?」
いっぱい言って、出かけてった。
ふふ、過保護……。
玄関まで見送るのすら心配してたけど、俺がしたいの!って言ったら何も言わなかった。
ゲームの電源を入れて床に寝転ぶ。
くったくたになったクッションの上で、今日はこのまま過ごそうと決めた。