「ごめん、俺…俺も、翔さんが、好きだ。譲れない。
誰にどう言われようと、俺の気持ちは…決まってる。
好きだから。翔さんが」


言って、翔さんを見た。
翔さんは、ちょっと驚いた顔をしたけど。
開きかけた口をぎゅっと閉じて。
俺を見て、うなづいた。


手を、握られる。
熱いその手を、握り返した。



「なによ……、なんなのよ一体」

その様子を見ていた彼女は、今まで聞いたことのないような低い声で言った。


「やってらんない、いったいなんだっていうのよあんた達。
普通じゃないわ……どうかしてる」


潤んだ目をキュッと手で拭った。
おっとりした、お嬢様ってイメージだった彼女の姿は無くて、
強い目で、顔を上げた。



「帰って。はやくここから出てって!」

「あ……」

「早く!これ以上惨めにさせないで!」


ちょうどそのタイミングで彼女のマネージャーさんが呼びに来て、
怪訝な顔で見られつつ俺たちは楽屋をあとにした。









帰りのタクシーも、無言だった。
行きよりも重い空気だった。


なんか……すごい時間を過ごした気が、した。




俺ん家まで送ってくれて、帰ろうとした翔さんを、引き止めた。
翔さんも、なんか……疲れきった顔をしてたから。
ダメージ、でかそうに見えたから。

俺もさ……、一人で過ごせる自信が無くて。











「お邪魔します」

きちんと挨拶をして、翔さんが部屋に上がってくる。

なんだか……すごく久しぶりな風景だな、なんて、ぼーっとする頭で思ってた。


翔さんが俺んちに来るのっていつぶりくらいなんだろう。


「借りるね」って、勝手知ったる、って感じで洗面所でうがい手洗いを済ませた翔さんは、当たり前のようにソファーのいつもの場所に座った。




俺は、なんだか……気持ちが落ち着かなくて。

エアコンを入れたり、加湿器を入れたり。
ちょっとそのへん片付けてみたり。

ソワソワと動いて、なんか飲む?ってキッチンに行こうとしたところを、
「落ち着けよ」って声で制された。
はんぶん笑いが潜んだ声に振り向くと、翔さんは、疲れたような笑顔でこっちを見ていた。