真剣な眼差し。
真っ直ぐに彼女を見つめて言い切る横顔に、思わず見蕩れた。



と。


笑っていたはずの彼女の顔が、真顔になり、
くしゃっと、歪んだ。
歪んで、俺に向かった。
手が、振り上げられる。
殴られる!
咄嗟に目を閉じる。






振り上げられた手は、俺の所まで届かなかった。
翔さんが掴んでくれたから。


「俺のことは、どれだけ恨んでくれても構わない。だけど……、ニノに手を出すのは、やめて欲しい。
からだも、心も…傷つけるのはやめて欲しいんだ」


かあっと、彼女の頬が赤くなる。


「なによ…なんなのよ一体…」


彼女の目が、怒りに燃えたように見えた。



「どうして?どうしてなの?
わたしだって……ずっと櫻井さんが!
櫻井さんが、好きだったのに!」


その目が、翔さんに向けられる。



「はじめて…お爺様の家で、あなたのお父様とあなたを見た時…
幼かったわたしはひと目で恋に落ちて。
いつか、必ずこのひとと結ばれるんだって…このひとのお嫁さんになるんだって…
ずっと…ずっと夢見て…

どうしてなの?なぜわたしじゃないの?
何がいけないっていうの?

わたしなら、みんなに祝福されて、結婚できる。

この人じゃ出来ないことをしてあげられるのよ?

なのに…どうしてなの?」



最後には、翔さんにすがりつくようにして話してた。


翔さんは、そんな彼女を、切ないけど、優しい目で見て、そっと手を取った。


「あなたの気持ちはとても、ありがたいと思ってる。
あなたの言いたいことも良くわかってるつもりだよ。
だけど……、
そういうのもちゃんと、理解した上で、それでも俺は…コイツが…ニノが、好き、なんだ。
理屈じゃないんだ」


彼女はそれを聞いて…
既に真っ赤になっている目から、大粒の涙をボロボロっと零した。




俺が、翔さんと知り合うずっと前から…翔さんのことを想っていたっていう、彼女。


その想いの強さが、俺にもひしひしと伝わってくる。



このひとも翔さんのことが、好きで。
好きすぎて。
どうしても手に入れたくて。
だから……、結果として、あんな騙すようなことをしてまでも、雑誌に写真を取らせたりまでしても、
それでも翔さんが、欲しかったんだ。


やり方は理解できない。だけど、その、想いの深さはわかる。
わかるから……。



わかるから、こそ。


俺は、覚悟を見せなきゃいけない。

それが、俺の誠意だ。