「ちょ……え、翔、さん」

「ニノ、仕事終わったら速攻帰っちゃうし、電話は出てくんないし、だから、直接来た」

「え、だって、相葉さん……電話……」

「相葉くんに、背中押してもらったんだよ。行ってこいって。話してこい、って」



立ち尽くす。
まさか、翔さんが来るなんて思ってなくて。
ずっと、避けてきてたのに。
しかも、こんな、日に。


翔さんの顔を見られなくて、俯いた。

正直、会えて嬉しいけど、でも……
今日の俺は…合わせる顔が、無い。
会う、資格が……無い。




何も……言えない。

言えないで、黙ってたら。




「ニノ、行こう」

「え?」

「上着…着てるな。じゃ、行こう」



手を引かれて、慌てて靴を履く。

どこに?とか、なんで?とか。
いろいろ聞きたいことがあったけど、聞く暇もないまま、連れ出された。

マンションの前には、タクシーのハザードランプが深夜の街を照らしていた。


「お待たせしました、お願いします」

先に俺を押し込んで、続いて乗り込んだ翔さんは、そのまま何も言わず目を閉じた。


俺は……話しかけることも出来なくて。


ただ、繋がれたままの手のひらの熱さを感じていた。









タクシーは、夜の街をスムーズにすり抜け、
見慣れたビルの前に止まった。



え…?テレビ局?



なんで?なんで?頭にハテナが浮かんだまま、タクシーを降りる。

タクシーの中で繋いでいた手が離されて、急に寒く感じた左手を、握りしめる。


それに気づいてるのかどうなのか、翔さんは振り向いて俺を見て、微笑んだ。



「ちょっと急いでいい?」

早歩きになる翔さんに、必死でついていく。

「この時間なら、番組終わってまだ居るって知り合いのスタッフさんに聞いたからさ。まあ、聞いたっていうか、勝手に向こうが言ってきたんだけど」

「え、だから、誰が?なんで?」

「んー…」

エレベーターに乗り込んでドアが閉まる。
翔さんは質問には答えずに、変わる階数表示を見ながら、指先で唇を撫でていた。
考え込む時のクセ。
考えてる。
何を?



自分から深く聞くのも戸惑われる。
だって俺、まだこの展開についていけてないんだ。





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