カチャ、と音がして。
リビングに戻ってくる。
隣に座る気配。
「なんだよ、髪くらい乾かさなきゃ」
被ったままだったタオルを頭から取って、ゴシゴシとこする。
目を閉じたままの俺に、
「どうした?眠い?」
優しく、優しく、問いかける、声。
頭を、ふるふると横に振ると、山口くんは俺を抱きしめた。
背中をそっとさすってくれる。
お風呂上りであったかい、体。
逞しい腕に、熱い胸板に、すっぽりと包まれる。
やっぱり、安心する……。
知らずに入ってた力を抜いて、山口くんに体を預けた。
ゆっくり、目を開けて山口くんを見た。
目が合う。
熱い、熱い視線。
俺を欲する、視線……。
手を引かれて、ベッドルームへと、移動する。
穏やかな間接照明は引き絞られて、うっすらと部屋を照らしていた。
そのまま……、二人でベッドに腰掛ける。
山口くんの手が、俺の頬に触れて。
優しくするすると撫でられる。
「ニノ、可愛い……」
蕩けるような声だった。
そして。
そっと、ベッドに仰向けに倒された。
熱い山口くんの手が、頬から肩、腕、と、優しく撫でていく。
マッサージのようでもあって、なんだか、力が抜けるような気がした。
腰まで届いた手が、Tシャツの裾をくぐってきて。
直接、肌に触れる。
嫌悪感はなかった。
むしろ、その熱さが心地よかった。
働く男って感じの、大きな、ちょっとガサガサした手のひら。
ベーシストならではの平たい指先。
「……、ん……」
知らず、漏れた吐息に、山口くんが俺を見て、視線が重なる。
熱い、熱い眼差し。
「目、閉じて……」
言われて、目を閉じると同時に、唇が重なった。
ビカッ!って、頭が……体の中がスパークしたように感じて、俺は、反射的に山口くんの胸を押した。
違う、違う、違う!!!
驚いた山口くんの顔が目に映る。
違う、違う!
頭の中にわんわんとこだまする誰かの声。
俺の、内なる声。
抱きしめられて、あんなに安心して。
この身を委ねてもいいって……頭ではそう思っていたのに。
唇が、重なった途端。
わかったんだ。
あの時……。
コンサートのあと、初めて、翔さんとキス、した時、感じたみたいに。
このわずか数センチの皮膚が、重なった、それだけで。
一瞬で、わかったんだ。
俺の求めるのは、これじゃないって。
この唇じゃないって。
「ニノ、」
「ごめん……ごめんなさい」
涙が、溢れ出た。
「ごめんなさい、山口くん……俺、俺……」
「ニノ……」
山口くんは、泣く俺をぎゅっと抱きしめた。
頭を撫でてくれる。
「ごめんなさい……ごめんなさい、山口くん」
泣き続ける俺を、名残を惜しむようにぎゅっと強い力で抱きしめて。
一瞬、息が止まったくらいに。
強く、抱きしめて、
そして、そっと体を離した。
山口くんの笑顔は……今日一番優しくて、一番、切なかった。
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