「翔ちゃん、何言ってんの?
翔ちゃんこそ、ニノに何言ったの?

翔ちゃんと付き合うことになって、ニノがどんなに喜んでたか……
表面にはあんまり出さないけど、すごく幸せそうで……
オレ、翔ちゃんならニノのこと幸せにしてくれるって思ってた。

なのに、なのに、なんだよ!
あんなニノ、見てらんないよ……」



言いながら、ふつふつと怒りが煮えたぎってくる。

だって、だって……!


オレが翔ちゃんを睨むと、翔ちゃんは俯いて、唇を噛んだ。
そして、ちょっと笑った。





「相葉くんはさ、なんか……勘違いしてるみたいだけど。
俺が、フラれたんだ、ニノに。
脇の甘い俺が……呆れられたんだ」


「え……?」


「もういいって……言われたよ。もう、めんどくさいって。やっぱりこんなの、無理だって」


「そんな……」


「ニノに……別れようって言われて。
悲しくて、悔しくて、ホントはやだったし、絶対別れたくないって言いたかったけど。

たしかに……なかなかゆっくり過ごすことも出来ないし。
なんていうか……付き合ってるっぽい事だって出来てないし。

もうやだって言われたらさ……。何も言えなくなって。

ニノのこれからを、縛っちゃうんじゃないか、って。

だから……」


「だから?!だからニノと別れてあの子と結婚するの?
翔ちゃんはなんっにもわかってないよ。
ニノがどんな気持ちで決断したかわかってんの?!
翔ちゃんはそれでいいの?!」


「いいわけないだろ?!
……わかんねえんだよ、どうしたらいいのか、ニノが何考えてんのか。
俺じゃ、わかんねえんだよ……。」


翔ちゃんは、頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜて、俯いた。



なんなんだよ。
こいつら、ふたりとも。
何やってんだよ。


オレは、腹が立って仕方なかった。



翔ちゃんも、ニノも、ほんとバカだ。


自分の頭の中で完結して、気持ちを抑えて相手にぶつけないで、
そんなんで気持ちが伝わるわけがないんだ。



オレも……
前に、潤と別れようって言って……その時も、そうだった。
自分の中だけで考えて……
迷って悩んで、壊しかけたんだ。


その時、背中を押してくれたのは、ニノだった。


だからニノだって、わかってるはずだ。

想いのままに、飛び込んでいけって言ってくれたのは、ニノだったんだから!



それなのに……



「翔ちゃんはさ……そんな生半可な気持ちでニノとつきあってんの?好きならさ、どんとぶつかっていけばいいんだよ!
そんなことも出来ないで逃げるみたいにあの子と婚約とかさ、それ聞いたニノの気持ち考えて──」

「なあ、さっきから気になってんだけど。
婚約って、なに?なんの話?」


「え、だって、あの子が」


ニノから、ちょっとだけ聞いた話をした。
あの子が、ニノんとこに来て、翔ちゃんと結婚が決まったから、婚約者のわたしを祝えとか、お前は引っ込んでろとか言ったとか!言わないとか!
いいんだ、ちょっと盛って話したほうが、鈍感翔ちゃんには効くんだから。



「そんなこと……」



翔ちゃんの表情が、変わる。



「あいつ、そんなこと何も……。」

「それだけじゃないと思う。もちろん言われたこともショックだろうけどさ、それに対して翔ちゃんが、なんにも言ってくれないのも辛いと思うよ。
とにかく……翔ちゃんはニノと、もっときちんと話をした方がいいと思う。しなきゃダメだと思うんだ。
このままじゃ……本当にダメになっちゃうよ?
それでもいいの?」


翔ちゃんは、手に持った焼酎のグラスをじっと見つめながら、オレの話を黙って聞いていた。
そして、その中身をグッと飲み干して。


「ありがとう、相葉くん」

て、笑った。


だから、オレも、

「怖がってんじゃねーよ!」

って、翔ちゃんの背中を思いっきり叩いてやった。



「ふたりとも、素直になって想いをぶつけあったらいいんだよ。」

「だよな、うん……」

「まあ……ニノは、一筋縄じゃいかないけどね」

「だよなぁ……」

「大丈夫、大丈夫!好きなんでしょ?」

「お前……よくそんな、簡単に……」

「好きなんでしょ??」

「ん……、うん……。」

「だったら、大丈夫。伝わるよ!絶対!」


ニコッと笑いかけたら、翔ちゃんも、ぎこちなく、笑った。