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で。



オレはいま、楽屋のドアの前で仁王立ちしてる。



オレ、怒ってるんだ。


今日は、今日こそは、絶対!
本当のところを聞いてやろうって思ってるんだ。




カチャ、って静かに楽屋のドアが開く。



「お、おお……どした?」


「しょーちゃん!!今日!!時間あるよね!!」


「え、あーーー、えっと……」


「仕事はもう終わりだよね!!」


「あ、うん……。相葉くん…どしたの?」


「いーから!!今日、しょーちゃんち、行くよ!!」


「えー、俺んちー?」


「行くよ!!」










前から翔ちゃんちは、どちらかと言うとごちゃごちゃしてるというか、ものが多いというか、
はっきり言って散らかってるイメージだったけど、
今日の翔ちゃんちは……過去最大に、凄かった。



「なに、これ……」

「いいだろ。掃除なんかする余裕なかったんたって」


ムッとした顔を浮かべながらも、どうぞ、上がって、ってスリッパを出してくれた。


先を行く翔ちゃんが、足先で床に落ちてる書類なんかを蹴って避けていく。


「ソファーの上は空いてるから」


たしかに、人ひとり座れるだけのスペースは空いていた。
背もたれにも、手すりにも服が乱雑に掛けられていて、
足元には書類や雑誌が散乱している。


ソファーの前のローテーブルに乗っていたグラスやペットボトルを、オレも手伝ってシンクへ運んだ。


翔ちゃんが、飲み物を用意してくれている間に、とりあえずソファー周り、ローテーブル周りだけなんとなく片付ける。



買ってきたデリを並べて、まずはビールで乾杯して。

プシュッといい音を立てて開けて缶のままグビグビっと……

あーーーうまいいいい!

やっぱりこの一口のために仕事頑張ってるね!
たまらなーい!



デリも超美味そう!
潤が前に差し入れで貰ったやつみたいで、美味いってきいてたからさー。
すっごい嬉しい!
わーい!



って、割り箸をパキッてしたところで、視線に気づいた。



あ……翔ちゃん。


そうだ!オレ!怒ってたんだった!


忘れてたんじゃないよ。
ちょっと喉乾いてたから!
そうだったそうだった。


ぷん!て怒った顔を取り戻して、翔ちゃんに向き直る。


翔ちゃんが、ぷっ、と吹き出した。


「なんなの、相葉くん……。とりあえず、食ったら?」


「……だよね?冷めちゃうしね?じゃ、話は食べたあとにしよ?」


とりあえず、怒るのは置いといて、
そこからはしばらく、ふたりで大いに食べて、飲んだ。


翔ちゃんもオレもいっぱい食べたい方だから。
ちょっと多すぎるかな?なんて思いながら買い込んだデリも、あっという間に胃の中に収まった。



あーーー、うまかった!
満足満足。

ふたりでラグの上でお腹をさする。

「ここ、すげー美味かったなー。俺も買いに行こ」

「うんうん、教えるよ、店」

「つぎ、焼酎でいい?」

「いいねぇー」



コトリと、グラスがテーブルに置かれる。

氷が溶けて、カラン、と鳴った。


しずかな、穏やかな時間。




「ねえ、翔ちゃん」

「…ん?」

「この部屋の感じからしても……とても婚約者がいる人の部屋とは思えないよね」

「は?婚約者?」

「彼女がいればさ、普通、部屋の片付けに来たり、遊びに来る時は片付けたり、すんじゃん。
でも、これじゃね……」

「ちょっと待って。なに?婚約者って」

「こないだの雑誌の……」

「はあ?!」

「だってニノが」



ニノ、の名前を出すと、あからさまに翔ちゃんは、ビクッとなった。
なんだか疲れたような、諦めたような雰囲気だった。


「ニノ……、なんか言ってた?」



オレは、翔ちゃんの質問には答えなかった。

そう、オレは、怒ってるんだ。