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カチャ、とロックの外れる音。



「おおっ、ニノ……そこに居たの?」


ドアを開けて、翔さんは驚いた顔をした。

けど、すぐにドアを閉めて、俺を抱きしめた。



「ニノ……、ごめん、ニノ……」

ごめん、を繰り返しながら、俺をその胸に抱きこむ。
雨の雫が、ジャケットの肩を濡らしていた。




「……何が?何が、ごめんなの?」

「だから……心配させて。秘密にしてて。ごめん、ニノ」


ふふふ……俺が笑うと、翔さんは、抱きしめる手を緩めて俺を覗き込んだ。




「ニノ……?」


「もういいよ、翔さん」


「……え?」


「やっぱりさ、無理があったんだよ」


「……何言ってんの?」


「翔さんにはさ、翔さんに相応しい相手がいる。相応しい未来がある。
そんなこと、わかってたんだ、俺もさ。
だけど……ちょっとだけ、夢見ちゃった。」


「ニノ、お前……」


「もういいよ、俺の、我が儘に付き合ってもらわなくったって。
無理しないでいいからさ、もう……」
 

「何言ってんだよニノ、俺は、お前を……」


「もういいって言ってんだよ!!」



静かな部屋に、俺の声が響いた。










「…正直さ、もう……めんどくさいんだよね。いろいろ、隠さなきゃなんないし。
全然時間も合わないし。
将来性だってないし」


「…………。」


「翔さんはビビってるし。後悔してんだろ?男と付き合うなんてさ、ありえねーって思ってんだろ?
人にも言えない、親になんてもちろん言えない、
孫の顔だって見せられない、
世間に知られたらとんだイメージダウンだよ。
ハッ、無理に決まってんじゃん。
天下の櫻井翔がさ、ゲイだって後ろ指さされるんだよ?
そんなリスク、背負うわけないじゃん。
しかもメンバー同士?ありえねーよ。」


「ニノ……、お前、それ本気で言ってんの?」


「もちろん」



翔さんの目に、怒りと……悲しみの色が見えた。

胸が詰まるような想いに押しつぶされないように、俺は……ふうっとため息をついて、言った。



「別れよ?てか、なかったことにしよ?」


「お前……なんだよそれ」


「帰ってくれる?もう、用はないから。
俺も忙しいんだよね。明日も早いし。」


そう言って、背を向けた。


「ニノ、嘘だろ……?」


翔さんの声が、震えてる。

俺は……俺の中の、ありったけの演技力を駆使して、続けた。


「嘘じゃない。さっさと帰って。
あ、合鍵、置いてってよ。」




できる限り冷たく言い放って、さっさと玄関から、リビングに戻った。


ガチャン、って。
しばらくして、玄関のドアが閉まる音が聞こえた。



リビングから、キッチンへ行く。
さっき開けてシンクの横に置いたままのビールを手に取って、飲もうとしたけど。
すっかりぬるくなっていて、そのままシンクに流して捨てた。


流れていく液体を俺は、ただ、見ていた。



涙はもう、出ない。



わかってるから。



翔さんの未来に、仕事以外の未来に、
俺は、必要ないって。



わかってる、から。









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