(side N)


早く、帰りたかった。


話し合いの場なんて、要らなかった。



何も、聞きたくない。
知りたくなんて、ない。



翔さんが…なんか説明してたけど。

みんなもなんか、言ってたけど。

よく聞いてなかった。


どこか遠くで、周波数のズレたラジオがかかっているような、
途切れ途切れに何か、聞こえてくるような。


そんな感じだった。









終わってすぐ、席を立って帰った。



もう、ここには居たくない。






スマホがずっとブルブルいってたけど。
翔さんからの着信だってわかってたけど。

俺は、早歩きで車まで戻った。


マネージャーが慌てて追いかけてくる。


「二宮さん、どーしたんすか!」

「うん、ちょっと急いでんの。ほら、ゲームのイベント始まっちゃうからさ」

「あー、またっすかー、夜更かしし過ぎないようにしてくださいよー?」

「わかってるって」


適当なことを言って、ハハッ、と笑う。




車に乗りこんで、自宅に帰る。


外は雨だった。



雨のせいなのか、時間帯のせいなのか、
道は渋滞している。
ガラスに見える雨の雫に、車のライトが反射する。
雨粒同士がくっついて、大きな雫になって、ガラスをつーっと流れていく様子を、見るともなしに見ていた。



「二宮さん?携帯、鳴ってません?」



言われて、何度目かの着信に気づく。


黙ってスマホの電源を落とした。





自宅に帰りついて、そのままベッドに倒れ込んだ。




目を閉じる。


明日も仕事だ。早く寝なくちゃ……。





頭の中をグルングルンと回る、写真。



寄り添ったふたりの姿。


そっと触れる、手。


撮影現場で見た、子どもを抱き上げる翔さん。


『お父さんとお母さんも、了解済みだったんでしょ?』


誰かの声。



昔、まだジュニアの頃。
翔さんの家に遊びに行ったことがある。
優しそうなお母さん。真面目そうなお父さん。


『同じ大学出身の彼女は、才色兼備なお嬢様で、櫻井ともお似合いで』

『撮影現場でも仲睦まじい夫婦を好演』

『両親とも喜んでいたようだ』

『結婚も秒読みだろう』




関係者は語る。芸能界に詳しいAさんは語る。スタッフBさんは語る。


記事の内容が、ぐるぐると回る。





「くそっ!」


布団を頭から被って、目をぎゅっと閉じた。