いい感じに酒もすすんで、軽く酔ってきている自分に気づく。
この位にしとかないとな…。
あとで、ニノに連絡とって…
もし家にいれば、顔を見に行こう。
そんなことを思いながら、彼女がお手洗いに立った時にスマホを覗くと、
思い描いていたやつからのLINE。
仕事が終わって家で飲んでます、って。
あいつは、ニノは俺に、来いとは言わない。
会いたいとも言ってこない。
なのに、時々、こんなLINEを送ってきたりする。
これって、会いに来いって事だろ?って……都合の良い考え方かな?
ふふ。思わず、画面を見つつにやけてしまう俺。
「彼女さんですか?」
意識がスマホに行っていて、音もなく帰ってきた彼女に気付かず、ビクッとする。
慌ててスマホの画面を閉じる。
見られては、いないと思うけど……。
あー、びっくりした。
そんな俺を、ちらりと横目で見て、くす、と笑って。
彼女は言った。
──いつまでも親に、いい人は居ないのか、結婚はまだか、って言われるのって面倒じゃありません?
だから……
両親には、わたしたちがお付き合いしているっていうことにして。
お互いに、カモフラージュしませんか?
って。
「いや、俺は……」
無意識に、手に持ったスマホを見ていたらしい。
──櫻井さん、お付き合いしてる人、居るんでしょ?
その人とのこと、世間に……知られたくはないんでしょ?
そう、妖艶に微笑む顔は、
昼間見た表情とは、全く違っていて。
俺は、息を呑んで彼女の顔を見た。
──わたし、知ってるんです。あなたの、お付き合い、してる人。
だってわたし、前からずっと櫻井さんのこと……
酔った頭に、耳に、その声はなんだか遠くから響いているようにも、すぐ近くで囁いているようにも、聞こえた。
なんだか、頭がガンガンする。
──だから、お爺様に言って、紹介して頂いたんですよ。
お爺様は、櫻井さんのお父様とご縁が深いんですってね?今でも頭が上がらないって。
彼女の、くすくす笑う声。
甘ったるい香水の香り。
ああ、気分が悪い……
──悪い話ではないと思うの。あなただって、世間に知られたら困るでしょう?国民的アイドルのあなたの恋人が、
男の人だなんて、ねえ……
心臓が、鷲掴みにされたような。
頭から冷水を浴びせられたような。
顔の血の気が下がっているのがわかる。
一気に汗が吹き出てくるのと同時に、目の前がクラクラしてきた。
──あら、顔色が良くないみたい。大丈夫?飲みすぎかしら?
そういえば、さっき、俺がトイレに行って席を外した時……
あの酒の味は、普通だった?
彼女の、笑い声が耳に障る。
「俺……、俺、もう、帰るから」
ふらふらと立ち上がる。
「あら、そんなふらふらして、帰れるの?泊まっていっても良いのに」
絡みつく彼女の腕を、振りほどくようにして俺は、バーを出た。
早く、早く帰りたい。
あいつの所へ……
そう、気持ちが焦っているのと、いつもと違う酔い方と……
何とか、エレベーターで降りて、ふらふらしながらロビーを抜けてホテルを出たところに、彼女が追いついて、
俺の腕に絡みついた。
「本当に大丈夫ですか?」
心配したような声を出しながら、目の奥が笑っているのがわかる。
両手で俺の顔を包み込むようにして、至近距離で見られて。
吐きそうな思いを堪えながら踵を返す。
その俺の腕に自分の腕を絡ませて、腰に、手を添えられた。
正直、足元の覚束無い俺。自然と彼女に寄りかかるようになって。
彼女の顔が耳元に近づく。
くすくすと、笑い声。
甘い香りが、鼻について。
フラッシュが、光ったような気もしたけど、定かではない。
確認出来なかった。
俺の意識は、そこで途絶えてしまったから。
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