くす、と、目の前に座った彼女が、笑った。


「…なんですか」

「ごめんなさい、だって…あんまりにも不機嫌そうな顔をしてらっしゃるから」

「そう、見えましたか」

「ええ。テレビで拝見するのとも、共演した時とも、大違い。」

「え…」

「意外と、お顔に出やすいんですね?」




そう言ってにっこりと微笑む顔は、確かに美人だ。



「無理矢理連れてこられた、って、お顔に書いてありますよ」

「それは…失礼しました」

「ふふ、わたしもです。食事会だから、って連れてこられて。
お相手が、櫻井さんだってわかっていたら、もっと張り切ってお洒落してくるんでした」



彼女の、穏やかで、かつちょっと茶目っ気のある話し方が、さらりと届いて、
なんだか、ムッとしていた気分が和らいだ気がした。


そもそも、共演していた頃から穏やかな、お嬢様って感じの立ち居振る舞いの子だな、とは感じていたんだ。

俺の仕事が立て込んでいて、撮影中もバタバタしていて、
スタジオからドラマ、撮り終わればすぐ移動、なんて毎日で、あまりゆっくり話す機会もなかったけど、
時折話す仕草や、子役の男の子との接し方にもどことなく品があって、人気が出てきたのにも頷けるな、という印象だった。



通う時期は重なってはいないながらも、俺と彼女は同窓だってこともわかって、
学校の思い出話に花が咲く。
そこから、仕事の話、共演したドラマのことや、共演者の話、最近の時事問題、旅行が趣味だなんて話や、行ったことのある国々、行ってみたい国々の話。
スポーツにも造詣が深いらしく、オリンピックやワールドカップの話、
何かにつけて共通点も多く、意外と、話は盛り上がって。

しばらく話したことですっかり打ち解けあっていた。




で、話し足りないからもう少し別のところで飲みましょうと言うことになり。



食事をした店がある、同じホテルのバーで、ふたりで飲んだんだ。



俺としては。
気の合う仲間というか。
友達ができたみたいな感覚でいたから。



このホテルも、俺が小さい頃から両親に連れてこられた馴染みだっていうこともあり、
ある程度のランクのホテルだから、プライバシーもしっかり護ってくれるって、わかってたから。



気軽に…ただの、気の合う友達と飲むような気分でいたんだ…。






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