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それは、なんの前触れもなく。
普段、そんなに連絡を取っているわけでもない、突然の実家からの電話で始まった。
撮っていたドラマも無事に数日前にクランクアップして、少しスケジュールに余裕が出来たある日。
久しぶりに一緒に食事でも、と。
たまには、ゆっくりと近況報告でも、と。
余裕が出来たとは言っても、仕事は、相変わらず立て込んではいる。けれど、まあ、時間を作れないこともないし。
本当は、時間があるなら少しでもニノと過ごしたいんだけど……。
そんなふうに考えながらも、
親孝行だって大事だ。
俺も三十路を超えて、親も歳をとってきているし、たまには、ね。
そう思って時間を作ったんだ。
指定された店は有名ホテルの中にある、懐石料理の、きちんとした格式のある店で、えらい張り込んだな、って少しだけ思ったのを覚えている。
店の雰囲気に合わせて、ちゃんとスーツを着ていったけど……
なんかのお祝いかな、何か最近家族にあったっけ?
不思議に思いながら行ったら。
スーツ姿の両親の横に座らされ。
向かいには、若い女性とご両親。
騙された。
「ちょっと……何だよこれ」
「食事会よ?お父さんのお世話になった方のご家族との、ね。」
しらっと母さんが言うけど。
何これ。
これって、いわゆる……。
「あのさあ……、こういうの、困るんだけど。俺の仕事、わかってんだろ?」
「なによ、だから、お父さんのお世話になった方のご家族との食事会だって言ってるでしょ。なんで問題あるのよ。」
物は言いようだよな。
シレーっと言うけど、これって、つまり、見合いじゃん。
この時、そこに居たのがまさにこの間まで共演していた、若手女優の子だった。
この子のお祖父さん、て人が、親父の大学時代の恩師らしく。
在学中も卒業後も、何かと世話になったんだ、という事だった。
彼女も、日本でも屈指の有名大学であるその学校出身で、在学中からミスコンでも選ばれ、モデルとしても活躍していたらしい。
いわゆる才色兼備のタレントとして、キャスターとしても、最近は女優業でも活躍している、注目株だって、雑誌やテレビでもよく取り上げられているのを、俺も見たことがあったから、共演前から名前だけは知ってはいたんだ。
それにしても……これは無いだろ。
俺の立場もわかってくれよ。
小声で文句を言っても、父さんも母さんも知らん顔。
俺の職業柄、恋愛はまだしも、結婚とか…無理だろうって、両親もわかってくれてると思ってた。
それが、三十路を過ぎて、何となく…ソワソワしだしたと言うか。
さりげなさを装って、「いい人は居ないの?」なんて聞いてくることもあったけど、
何となく、はぐらかしてきたんだけど。
ついに実力行使に出たらしい。
差し障りのない話をしながら、味もわからないままの食事も済み、食後のお茶を飲みつつ、なんて言って出ていこうか、言い訳を考えていたら、
「じゃあ、あとはお若いおふたりに…」
って。
うわ!こんなのドラマでしか見たことねーよ。
そのまま、ふたりきりにさせられた。