(side S)



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思えば……。


俺も、悪かったのかもしれないって。

今となれば、思うけど。

その時は、まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかった。







久しぶりの主演ドラマの撮影が始まり、他にも、長時間番組も含めいろいろな番組の収録も重なって、この時期俺は、かなり忙しくしていた。
忙しいのはいい。
アタマもカラダもフル回転させて動いている時、ちょっと大袈裟にいえば、生き甲斐って奴を感じる。
単純に言って、楽しい。
俺にとって、なんにも予定がなくてボーッとしている時間こそ苦になるほうだから……
だから、人から見て忙しいくらいが丁度いいんだ。
いいんだけど……。


せっかく、想いが通じあった恋人と、一緒にいる時間が短くなるのはイタイ。



5人の番組や取材なんかで会えることはあっても、
ふたりきりで……いわゆる恋人同士の時間を過ごすことがなかなか出来なくて、俺は、ほんの少し焦っていた。




なんてったって……やっと、やっと、アイツを手に入れたんだ。
俺がどのくらい長い間アイツのことを思い続けていたか……!




やっと実った……いや、実る前にその実は、腐って、落ちてしまうとばかり思っていた想いが、この手の中にあるというのに、
俺は、その実を持て余していた。



だってさ……。
手に入れた事さえ奇跡のような実なんだ。
すく食べてしまうのは、惜しいだろ?




……なんて。


いろいろ言ってみているけどさ。


要は、どうしたらいいのか、わからなくて……。
なんといっても、俺は、この恋を大事に育てたかった。
焦って失う、壊してしまう……なんてことがないように、したかったんだ。

何しろ、俺も、たぶんニノも、オトコと付き合うことなんてはじめてで。


慎重にもなるだろ?







とは言っても、俺だって、別にオトコが好きなわけでは、断じてなくて。
アイツだから……
たまたま、好きになったのがアイツで、それがオトコだったってだけで、
つまり……
そういうの、調べるのもちょっと億劫というか、なんか、怖い、と言うか……。
チラッとネットで見た、いわゆるそういうページも、開いた瞬間、びっくりして閉じた。



だからさ……。なんというか、どうしていいのか……。
アイツのこと、大事だから。
余計に、いざ、という時に俺がビビってらんないし。
自分でも、めんどくさい性格だなって思うけど。
ちゃんと理解して、シミュレーションして、準備万端整えてからじゃないと、挑めないというか。






だけど、俺は精一杯想いを伝えていたつもりだったし、
ニノにもわかってもらえてるって思ってた。



出来るだけ、時間をとって会えるようにしていたし、
会えた時は、想いを言葉にして伝えるようにしていた。
会えない時も、メールや電話をしたり……


こんなに俺ってマメだったのかってビックリするくらい。


たぶん、昔俺が付き合ってきた女の子たちが今の俺を見たら、信じられないって驚くんじゃないかな。



彼女達に、会いたいって言われる度、
今度はいつ会えるの、って聞かれる度、
たまにはわたしのために時間を作ってよって言われる度、
初めは好きだった気持ちが、どんどん萎えていって…
だんだん、連絡もとらなくなっていって…
自然と、終わりになってしまった。



そんなことばっかりだったから。





だから、今の状況が、自分でも不思議で。





とにかく。


俺は、この恋を大事にしたかったんだ。