(side A)






ニノが、すっと表情を消した。


これ、感情を抑えてる時。


昔は、よく見たんだ。
まだ、オレたちが知られていなくて、もがいていた頃。
理不尽なことを言われた時、された時、意に沿わないことをしなくちゃいけない時。
表情を消して、本心を隠して。
シャットアウト、する。
久しぶりに見る顔。

一瞬の、顔。



もちろんそれは、すぐ、いつもの笑顔の仮面の下に隠されちゃうんだけどね。
人懐っこい、アイドル、二宮和也の笑顔の下に。



今日は。


その仮面は現れなくて。
楽屋だから、かな。
表情は、こわばったままで。



ゲラを持つ手が、細かく震えているのを見て、オレはその手をそっと握った。



黙って、記事を読んでる、ニノ。

オレが手を握っていることにも、もしかしたら気づいていないのかも。


その目は、ゲラをじっと見てる。





オレも、ニノが来る前にちょっと読んだけど、
内容は……
まるで見てきたかのように語る、どこの誰だかわかんないような『関係者』の話。
まるで当然のように書いてるのに、でも語尾が必ず仮定形で、
「~~らしい」「~~のようだ」って文章ばっかりの記事。


良くある、ゴシップ記事。
笑っちゃうようなやつ。




なんだけど、さ……。



写真、バッチリ撮られちゃってて。


翔ちゃんと……女の子のツーショット。



ちょっと……インパクト、ある、よね……。






.固くこわばったニノの顔を見て、何か言ってあげなくちゃ、と思っているんだけど、何を言っていいのかわからなくて……。



「ニノちゃん、あれだよ、なんかの間違いじゃない?

なんか、理由があって……そうだよ、きっと」



根拠の無い励ましをする、自分が情けなくて……。
だってほら、ニノには、届いてない。
俯いたまま手元をじっと見るニノには。
どんなに話しかけても、反応はなくて…。
こんなに近くにいるのに……




歯がゆくて、それでも、何か言ってあげたくて、口を開きかけた時。
楽屋のドアが慌ただしく開いた。




「すみません、皆さん、遅くなりました!」


バタバタと入ってくる翔ちゃんのマネージャーと…その後ろに、俯いた翔ちゃんが、入ってくるのが見えた。


ビクッ、とニノの肩が揺れる。




「翔さん、どういう事だよ!」


潤が、詰め寄った。

俯いていて良く見えない翔ちゃんの顔は、なんだか疲れきっているみたいだった。
そうとう事務所で絞られたのかな…。


「みんな、ごめん、迷惑かけて」

翔ちゃんが、頭を下げた。


「謝るのもいいけどさあ!ちゃんと説明してくれよ!」

憤る潤は、今にも翔ちゃんに掴みかかりそうで…


楽屋の空気が、一気にピリッとなる。


ニノは、ずっと俯いてて。


オレは、ニノの肩に手を乗せて、そっとさすってた。






.