「ごめん……。」


「ううん……。」


「ニノ、俺だって……。俺だって、泊まっていきたいよ。
一緒に夜を、過ごしたい。
だけどさ……。
俺、お前の事、大事にしたいんだ。
勢いだけでどうこうとか……やなんだ。」


「うん……。」


「正直、何度も、このまま……って思った。
帰りたくねえな、なんて毎回思ってる。
だけどさ、泊まったら……
酷いこと、しちゃいそうで。」


「酷い、こと」


「それにさ、俺、その……。」


そこまで言って、翔さんは顔を赤らめて、俯いた。
なんか口の中でもごもご言ってる。



「なんつーか、俺……。
まだ、勉強不足っつーか、
その、準備不足っつーか、研究途中っつーか」


「え?なに?聞こえない」


「とにかく!準備万端整えてから臨もうと思ってんの!」


言い切ったけど……。
なんだそれ。
大真面目に。


「じゃあさあ、その準備ってゆーのは、いつ整うのさ」


「いや、いつ、っていうか……。然るべき時期と場所を準備してだな、」

「まさか、記念日に、夜景の見えるオシャレなホテルのスイートルームで、みたいな」

「…………。」

「マジだ」

「なんだよ、悪ぃかよ…。」




拗ねたように目元を紅くして言うのが、なんか……可愛くて。



「わかったよ。早く準備万端整えてくださいよ?
俺だって、待つのにも限界あるんだからさ?」


って、笑って、拗ねて尖らせた唇にキス、してやった。



「もう!だからお前はー!」



焦る姿も、可愛くて。


俺達はそれからしばらくの間、二人で笑いあった。


なんとなく、二人とも同じ想いだって、わかったから。



感じていた不安も、霧のように消えて。
信じて待とう、焦ることないよね、って思ったんだ。






だけど。





あとになって、この時……。
無理を言ってでも一つになっておいたら、なんてさ。
気持ちをカタチにしておいたら良かった、なんて、
考えても仕方の無いことを、思ったんだ……。