あの子だったら……。
あの、共演してる女の子だったら、
きっと素直に甘えるんだろうな。

この腕に、身を任せて、なんの障壁もなく、迷いもなく、飛び込んで……。



そんなことを思ってると。



向かい側に座って飲んでた翔さんが、箸を置いて隣に来て、
ダイニングテーブルの椅子を、よいしょっと寄せて、肩が触れる近さに座った。





真面目な顔。
眉間に、シワを寄せて。
怒って、る?
横目でちらっと、見る。


と、肩をぎゅっと抱かれた。
翔さんの肩に俺の頭が乗って、翔さんの頬が俺の髪に触れている。




「もう……。お前、可愛いな」


思ってたのと正反対のことを言われて、慌てて離れようとしても、
翔さんの腕は俺をぎゅっと捕まえていて。




そのまま、俺をぎゅっと横から抱きしめたまま、


「こないだから、どうしたんだよ。
ニノらしくないじゃん。

もっと思ってる事、言って?
もっとワガママ言って、甘えてくれよ。
な?
悩みがあるなら、言って欲しいし、頼ってほしいし、
俺が相談に乗れるなら……。」


心配してる声。


あったかい、声。


俺を、想う、声。








なんか……。



キモチが、溢れて。


翔さんに、しがみついた。

胸に、顔をうずめて、極力、顔が見えないように。
顔なんか見られたら、俺、恥ずかしくて、しんじゃう。


耳も、顔も、熱くて。
必死で、隠した。







ふふっ、て翔さんが笑う声が胸から俺の顔に響く。



「もう、お前……。可愛いこと、すんなよ。
帰りたくなくなるだろ?」


「帰らなくていいよ!」


「ニノ……」


「……帰んなよ、ばか」


「……。」


「わかんだろ……。もう。ばか。言わせんなよな……。」




はぁ、ってため息が、頭の上から、聞こえた。



「もう……、お前は……」






抱きしめた腕に、きゅっと力が、入って。
苦しいくらいに。
俺の心も、きゅっ、てなって。
息苦しくて、埋めてた顔をあげたら、
目の前の翔さんは、眉を下げて、困ったような、怒ったような、顔で。



「お前……。俺が、いったいどんな気持ちで……」


言いながら、俺の唇を奪った。


それは、いつもの優しいキスじゃなくて、
なんだか、性急な……
俺の全てを奪い取ってしまうような、もので。


息もつけなくて……。


やっと、離してもらった時には、ふらふらで、思わず膝がガクッとなったのを、支えてもらった。