はぁ、って小さなため息が出て、ぎゅっと自分の膝を強く抱え込む。


と、隣から、くすくすと笑い声が聞こえた。


俺の隣に座った相葉さんも、俺と同じように膝を抱えて、こちらを見て小首をかしげる。



「ニノ、かわいい」

「はぁ?!」

「恋、してんね」


優しい笑顔で見られて…
なんか…ムカつくっていうか、恥ずかしい。


「からかうなよ…」

「からかってなんか無いよ?オレも、気持ちわかる。」



そう言って、ニコッと笑った。


俺が見る限り、この人と潤くんはいつもラブラブで。

あの時……、俺の告白事件の時にちょっとゴチャゴチャして以来は、揉めてるところも見たことがないくらい。

この人は、少なくとも俺達の前では、潤くん好き好き!っていうのを隠さずにいるし、
潤くんも、それを優しく見守っている感じだ。

だから、俺と翔さんとは、違うって思ってた。


なのに……。




「オレもさ、時々思ったり、した。
こんなカッコイイ人、オレなんかが縛り付けていいのかな、って。
でも…」

「でも?」

「好きだから、さ。仕方ないじゃん。だって、好きなんだもん。
潤も、そう言ってくれる。
好きなんだもん、もう、認めるしかないよ」


前を向いて、そう言う相葉さんの顔が、しあわせそうで。


「なんだよ、ノロケかよ」

って、悪態をついた。



相葉さんは、否定するでもなく、くふふ、と笑って、


「言えばいいんだよ、ニノも。
好きだよ、愛してるよ、だから一緒にいてよ、って。ね?」


「……言えるかよ」


「あのねえ?」


俺の肩を掴んで、目を覗き込む。


「言わなきゃ、わかんないんだって!どんなに好きあっててもさ、言わなくちゃ伝わんないんだよ?」

「……うん……。」


「だーいじょうぶ!ニノちゃんは、可愛いよ?」


「はぁ?!ばっかじゃないの?!」


「でもさ、素直じゃないだけなんだって、ホントは寂しいんだっていうこともさ、
伝わらなかったらもったいないじゃん。

大丈夫、大丈夫。
怖がらなくてもいいんだよ?」



そう言って、俺の頭をくしゃくしゃっと撫でるから。

なんとなく、泣きそうになった。



誤魔化したくて、立てた膝に顔をうずめる。


相葉さんは、しばらく何も言わず、俺の頭をポンポンと撫でていた。














そうは言われても、さ。



人間急には変われないわけですよ。


第一、相葉さんは、「好きなんだから仕方ない」なんて言ってたけど、
俺は、どうしてもそうは考えられない。


好きだって……我慢しなきゃいけないことだってあるし、
愛してたって、諦めなきゃいけないことだって、ある。



好きな人の、邪魔になりたくない。
足枷になんか……、なりたくない。
そう思うから……。




「どした?」


箸を止めて翔さんが、俺を見た。



撮影がものすごい巻きで終わったって言って、翔さんがうちに来てくれた。


俺はもともと早めに終わる日で、家でまったりゲームしてたから、
来る途中でいろいろ食いもんとか買ってきてくれた。
ダイニングテーブルに向かい合わせに座って、一緒につまみつつ、飲んでる。



「んんん、なんでもない」

精一杯の笑顔で返す。


笑顔は得意だ。


それが仕事だもん。


面白くともなんともない時だって、
心がモヤモヤしてる時だって、
喜んでいただけるような笑顔を見せる自信がありますよ。




「何でもなくねーだろ?」



なのにさ。

なんで今日に限ってそんなこと言うのさ。



「なんかあるんだったら、言えよ?」


「……何もないって言ってんじゃん」





なんでこんな返事しか出来ないんだろ。



俺、やっぱり可愛くなんかねーよ。相葉さん。



おもわず、俯いて、嗤う。
天邪鬼な俺。
ちっとも可愛くなんてない。