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「えええーーーっ!!まだなんにもシて無いの?!」
「わっ、ばか!しーっしーっ!!」
突然大声を出した相葉さんの口を、慌てて抑える。
こないだ、どうだった?デート!ってワクワク顔で聞いてくる相葉さんと、久しぶりに飲もうって、今日は仕事終わりに相葉さんちに来ていた。
慣れた手つきでメシ作ってくれんのをゲームしながら待って、作ってくれた生姜焼きを腹いっぱい食って、
それから、飲んでるとこ。
飲みながら、デートの話に、なって。
何となく……流れでそんな話になって。
や、俺が自分から話したんじゃないよ?
なんつーか、言わされたっつーか……
俺が、言いよどんだことで、察しちゃったっつーか……
コイツ、天然に見えて結構鋭い。
周りをよく見てる男だからね。
そう言うと、『特にニノちゃんの事はね!』ってカラッと笑うんだ。
こういうとこ。俺がこの人を好きなとこ。
もう、そこに恋愛感情は無いけど。
「声がでけぇよ……」
「マジか……。」
「……マジ」
「それって」
「それ以上言うな」
なんか、改めて言葉にされると…虚しいじゃん…。
「なんで?ニノ、大事にされてるんだねって話じゃん」
「……そうなのかな」
「まあ、単に翔ちゃんがビビってんのかもしんないけどねー!」
焼酎の入ったグラスをぐっと傾けて、うひゃひゃ、と笑うのを、ジトっと睨む。
「ごめん…」
わかりやすくションボリする相葉さんを見つつ、俺は、グラスを持ったままソファーに足を乗せて、膝を抱える。
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「……ビビってんの、かな…」
「え?ニノ、やだな、冗談だよ?」
「やっぱさ…。常識人の翔さんにとってはさ…。
こういうのって、特殊、じゃん?」
「ニノ…」
「だから、さ。やっぱり。無理、だったのかな、って。」
自分で言いながら虚しくなる。
自分の口から出た言葉たちが、自分の耳から入ってきて、
なんか……2度、ダメージ受けるような感じ。
俺と翔さんが、付き合うこと。
これは、『フツー』じゃない。
翔さんは、常識が服を着ているような人だ。
いや、仕事に関しては…
常識から外れたことも、ちょっとした無茶も、果敢にチャレンジしてる。
お茶の間ではすっかり優等生キャラになって、もう何年も経つっていうのに、
若い頃のヤンチャな片鱗を覗かせることもあったりして、
まだまだ成長を止めないんだ。
だけど、事、こういうことに関しては、
やっぱり、『フツー』で、『平凡』なシアワセを望んでいるんだろう。
前にインタビューでも答えてた。
『孫がいて子どもがいて奥さんがいて、ていう落ち着いた老後を過ごしたい』
それが、本音なんだと思う。
告白……してくれた時はさ?
なんか、そういう気持ちになってたかもだけどさ。
今になって、やっぱり……
__無理だったわ、有り得ないわ、ごめん、ニノ
って……。
夜、一人になるとさ、考えんの。
翔さんの背中を見送って……。
それまで、すっごく楽しかったのに、
好きだなあって、幸せだなって、思うのに。
__ごめん、ニノ。やっぱり、こんなのって、有り得ないだろ?
そんな声が……聞こえてくるような気がして、さ。
たまらなく、なるんだ。
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