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それにしても、似合っている。

こちらに向かって、きちんと正座をして座っているサットリくん、こと智くんを見て、
なんていうか…
なんか…





すんげー可愛いんですけども!!!



なにこれ!可愛いってもんじゃないんですけど!!
あれかな?これってひと足早い俺への誕生日プレゼントなのかな?
なに?!
俺のデレ顔を全国放送しようっていう、そういう魂胆??
やめてくんないかなー、こんなに可愛い智くんを日本全国にお見せしちゃうのって!ダメでしょ!マジで!!もったいないでしょ!!



でっきるだけ顔に出さないようにアタマの中で身悶える俺。
どの局だかわかんないけど、このドッキリを仕掛けてくれた番組、ありがとう。


お礼に、見事にひっかかってみせます!
男、櫻井翔、34歳。
空気の読める男です。



「ところでサクライ氏(うじ)」

「なあに?さと…サットリくん!」

「お腹は空いてないでござるか?」

「ああ、うん…少し」

「拙者、食事を作るでござるよ!待つでござる!」


しゅたたっ、という音が聞こえてきそうなほど、素早くキッチンに向かうサットリくん。

素直にリビングで待つ俺。
きっとカメラはこのリビングのどこかに設置されているんだろう。
どこにカメラがあるのかわかれば、効果的にリアクション出来そうなんだけどなー。
あんまり受け入れすぎてても嘘くさいし、うーん、なかなか難しいな…。


そんなことを考えながら座っていると、キッチンから大きな物音とともに、サットリくんの「ンギャッ」て悲鳴?が聞こえた。
慌てて見にいったら、材料や調味料は散乱してるし、フライパンの中身は黒焦げ。
頭から、ボウルの中身をかぶったサットリくんが、半べそで立っていた。


「失敗したでござる…。」



やだ、可愛い。


じゃなくて!
ションボリしたサットリくんは、しばらく俯いていたけど、
俺が「大丈夫、そんなに腹減ってないし!」と言うと、


「本当は拙者、洗濯が得意でござる!!」


と、とてとてとバスルームへ走っていった。



.しばらくまた、なにか格闘しているような物音…。
そっと覗いてみる。


バスルームの湯おけに水を貯めて、泡だらけになって頑張っている…けど。
手洗いかよ!
真剣な顔で鼻の頭に泡のせて。



やだ、やっぱり可愛い。



じゃなくて!

しばらく見ていたら、泡で滑ってつるんとコケた。


「だ、大丈夫??」

派手にゴツンって言ったけど!

前のめりにコケたからオデコが真っ赤…。
たんこぶ、できたんじゃないかな?
今にも泣き出しそうにその目も真っ赤。


慌てて俺は、サットリくんを助け起こした。

大丈夫かな、顔に傷でもついたら…
腐ってもアイドルだからね、俺たち。
あ、智くんはぜんぜん腐ってないけど!

気づけば至近距離で顔を覗き込んでいて。

目の前に、うるうるうるんだ智くんのおめめ。


慌てて、腕を伸ばして顔を背ける。

ダメダメ、破壊力すごい。

可愛すぎます。

なにこれ、やっぱり俺の耐性テスト??




サットリくんは、ゴシゴシっと乱暴に目を擦って立ち上がると、


「今度こそ!拙者、掃除をするでごさる!」


ぺたぺたっと濡れたままの足音を鳴らしながら、リビングへ…。



足跡、ついてますけど。
濡れた忍者服から、しずく垂れてますけど。


リビングでキョロキョロして、テーブルに乗っていた、頂き物の、某ブランドの、まだまだ新品の、結構お気に入りのタオルを、雑巾にして雑巾がけし出した。

ああ……。ま、いいけど。いいけども。


雑巾がけしたあとに、しずくと足跡が点々と残る。
これ、掃除してんの?汚してんの?
スピードは、早いけどね…。


どたばたと雑巾がけをして、

「出来たでござろう!」

と、ドヤ顔して、振り向いて、
床に点々と残る足跡に気づいて、肩が落ちる…。




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