(side S)

たしかに昨夜は、飲みすぎた自覚はある。


ツアーが無事終わり、打ち上げと称してメンバー含め関わった大勢のスタッフと飲み。
翌日がオフだっていうのも手伝って、大いに喋って飲んで食って笑って、
いい気分で帰ってきて、ベッドに倒れ込むように寝た。
うん。ちゃんと記憶も残ってる。
たしかにいつもよりは飲みすぎたとは思うよ?
でもさ…。


いや…これは…


目が覚めて、隣に知らないハダカのオンナが寝てた、とかなら、うん、まあ、若い頃なら、いや、その、わからないことも、ない。


んだけども!



目が覚めたら、部屋に、忍者が居たんです。


櫻井翔、34歳、ピンチです。



「起きたでござるか。」




忍者は、ビビる俺の目の前に、張り付いていた天井からしゅたっと降りてきて、ニコッと笑った。



その顔には見覚えがある。
見覚えどころじゃないよ!


「ていうか、智くんじゃん!
なんだよー、ビビったー!!兄さん、何のコスプレ?」



ていうか、あれか、これ、ドッキリか?
自宅でのドッキリなんて、悪質じゃない?
いつの間に…。


忍者姿の智くんは、キョトン顔…。



「え?智くん?でしょ?」


「拙者、伊賀から参った、忍者サットリくんでこざる。」


「うん…って、え?え?何その設定。いやいや、ちょっと、冗談きついよー。」


「冗談など、言ってないでござる。」


あくまでも真剣な顔の…智くん。


「いや、智くん…」


「サットリくんでこざる。」









.…………。怖い怖い怖い怖い。
俺は、できるだけその…忍者姿の智くんから目を離さないようにしながら、部屋をウロウロしてカメラを探した。


ドッキリにしては下手くそすぎる!


いや、裏をかいて、明らかにバレバレのドッキリを装って俺のリアクションを見てるんじゃ…。


だけど、普段の経験上、設置されそうな場所にはカメラがある形跡はなく…。


探しているうちに、部屋に積んでいた書類や本の山が、大きな音を立てて崩れた。


その瞬間、その智くんは、消えた。


「えっ?えっ?智くん?!」


さっきまでそこに居たのに?!


「驚いたでござる…」


つぶやく声は、頭の上からした。



そういえば、さっきも天井に…張り付いてて…。


智くん、いつの間にそんなに鍛えたの?!


って…。


アレかな、強力な磁石かなんかを仕込んで、天井に鉄板を…。
どんなトリック使ってるんだろう。



「あのね、智くん…」

「サットリくんでござる。」

「うん…。さ、サットリ、くん?」

「なんでござるか。」



うーん。智くんは完全に真顔。


仕方ない。

俺は、この下手くそなドッキリに乗っかることにした。

テレビ的にも、少しは撮れ高あった方がいいでしょ。
とか、考えちゃう俺。
もう、職業病。



サットリくん、て名前から言っても、アレでしょ?これ、アニメで見たことある、アレでしょ?
どんぐり眼に、への字口、
くるくるほっぺに覆面姿の…。

事務所の先輩が映画でもやった、アレでしょ?


夕方のアニメの再放送で見たことある、主題歌のとおり、
智くんは、青い頭巾をかぶって、
ほっぺにぐるぐると渦巻きが書かれている。


コントにしても、手抜きすぎでしょ…。