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で。
来ちゃった。
翔さんの、ドラマの撮影してるってスタジオ。
マネージャーに、今日の翔さんのスケジュール、確認してもらっちゃった。
偶然、通りががったからさ!
近かったからさ!
お世話になったスタッフさんに挨拶しようと思ってさ!
言い訳を脳内で考える。
くふふ。
ビックリするかなー。
どんな顔すんだろ。
大きな目を思いっきり見開いて驚くコイビトの顔を思い浮かべて、ニヤニヤしながら歩いてた。
「あれ?二宮くん?」
「おーっ、久しぶりー。お疲れ様ですー。」
ウロウロと歩いてたら、ホントに、前にお世話になってたスタッフさんに会っちゃって。
懐かしい話に花が咲く。
「どーしたのよ今日は?あ、櫻井くん?」
「そうそう、偶然近くを通ったからさ!ちょっと顔見てこうかと思って。」
「へぇー、ホントに嵐って仲がいいんだね?」
「そうなんすよー」
なんて言いながら、ふと奥を見たら、見慣れた背中が見えた。
ちょっと失礼、と頭を下げて、近づこうとして足を早めて行くと、
翔さんの向かい側に人影を見た。
艶やかな長い髪に小柄で華奢な体。
最近、人気の若手女優さんだ。
もともと、モデル出身なんだけど、有名大学を出た才女としても話題で、
そういえば、最近はニュース番組でもキャスターとして起用されたって話題だよな…。
その彼女と、翔さんが笑いあっている。
何を話してるかまでは、ここまで聞こえない。
んだけどさ。
なんか、スゲー楽しそうで。
クスクスと笑う彼女の、細い指が、翔さんのジャケットの袖を触る。
そのまま、その手は腕を撫でるようにして上に動き、
ネクタイの歪みを直す。
.二人の距離が、なんか…すげー近いな、って思った時、
翔さんが、手を伸ばして彼女の髪を触った。
翔さんの、綺麗で、強くて優しい手が、彼女の髪に優しく触れてる。
その時、子役なのか…小さい男の子が駆け寄ってきて、
翔さんが、ごく自然な感じでその子を抱き上げた。
俺のいるところからは、翔さんは後ろ姿で顔は見えない。
でも、彼女はこっちを向いていて。
頬を染めて翔さんを見上げる、その顔が見えて。
その表情を見て、俺は…。
いたたまれなくなってそのままスタジオを後にした。
初めは、歩いてたけど。
だんだん、早歩きになって、
最後には、走ってた。
胸が、ドキドキして、キューって、痛くなって。
走ったせいだけじゃなく、息苦しい。
「あ、二宮くん、どうした?」
さっき喋ったスタッフさんに、愛想笑いも出来なくて、
会釈だけして通り過ぎる。
駐車場に停めてた車に飛び込むように乗って、
スタジオを後にした。
もし、終わる時間がわかったら…。
どっかで待ってて一緒に帰ろう、なんて。
出来れば、メシでも…
時間がなければ、送ってくだけでもいいや、なんて、自分のクルマで来て、
ウキウキしていた自分はどっかに消えて。
さっき見た光景が頭の中を占める。
慣れた仕草で子どもを抱く翔さんと、それに寄り添う彼女の姿は、とても自然で。
現実を、目の前に叩きつけられた気がした。
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